聖竜解体
竜を解体するにあたっては、アルゴの個人艤装である贋作日本刀が使われた。
炊き出しの包丁や転がっていた造船工具では、竜には刃が立たなかったからだ。
舌出ししたままネジレた首は兜のように置かれ、肩から垂れ下がっていた白い聖装は、とっくに脇にうっちゃられている。
魔力甲冑付き日本刀はバッテリー式電熱線みたいに振るわれて、チェンソーで冷凍マグロを解体するがごとく神聖竜を腑分けていく。
アルゴにより切り出されたブロックがその場でスライスされてから、炊き出し要員たちに引き渡される。
内臓の処理を一寸奥のほうで見えないようにしているあたり、手慣れた者たちによる鮮やかな仕事っぷりが感じられる。
「もっともっともっともっと、挽き肉になる一歩手前まで切り刻むぬ」
アルゴは一切手を止めることなく、丸太のような腕を踏みつけノコギリで木を切るように竜を解体しながら、ハキハキと指示を飛ばす。
「こいつめちゃくちゃにスジが多いぬ。
つけダレして酵母分解する時間が惜しいからひたすらスジを切るぬ」
「コウボ?」
「ヨナが教えてくれた低級な肉の美味しい調理法ぬ。いまは気にしなくていいぬ。ひたすら切って叩けぬ」
竜から切り出された肉の塊をひたすら、切り刻み、叩く。
「塩、塩はどこだぬ!」
「もうすぐ届きます」
「走って持ってくるぬ! みんなハラをすかせてるぬ!
塩がなければ海水でもいいから汲んでこいぬ! 塩気のない肉なんてゴムに劣るぬ!!」
「ゴム食ったことあるんですか!?」
私はスイと共に、アルゴが竜を食肉に解体しながら焼け出された工員たちを指揮する様子をちょっと離れたところから眺めている。
「アルゴって、バーベキューで張り切るタイプだったのね」
「ヨナさんのせいで舌が肥えて困ってるって、このまえ言ってましたよ」
それは、悪いことをしたかも。
横から伝令がスイに伝える。
「提督! 各艦で焼いているパンは、到着がもう10分遅れるそうです」
「仕方がありませんね。みなさんおなかがすいているので、先に炊き出しを始めますと伝えてください」
「了解です」
伝令がてきぱきと報告を済ませて、スイもよどみなく返事を返している。
私、やることないなぁ。
「そういうの象徴って言うんですよね。座っていればいいって。みんな仕事してるのに気まずいですよね」
スイと共に肉叩きに参加することにした。




