突発、神聖バーベキュー大会(主催:古代戦艦イリスヨナ)
「食料が足りない?」
「大陸鉄道が止められているらしくて」
遠征艦隊を迎えに行き、とんぼ返りで母港に戻ってきてすぐ。
受け取った報告は予想外のものだった。
「集積所の備蓄が燃やされてしまったのはともかく、鉄道路線は無事だったはずよね」
備蓄といっても新浜駅舎ちかくに建てられた集配倉庫のようなもの。
海産加工のために人口が増え、海産は余るほど採れても穀物食料は自給では足りないため輸入だよりだが、それゆえ最近は毎日のように食料が運び込まれており、物資が足りなくなることはないと考えていた。
「海浜辺境の大陸鉄道支線は、エーリカ様の膝下でしょう?」
輸入停止がエーリカ様の意思であるなら、降伏するしかないが。
あのエーリカ様が便乗の嫌がらせで鉄道運送を止めるとは思っていない。
「委託している南州大陸鉄道公社が、安全確保を理由にして、勝手に運行を止めたようです。
レイン様がエーリカ様とともに公社へ運行再開の申し入れに向かわれました」
そういうことならレインに任せておけば良いだろう。
「鉱山労働者組合が、地下の備蓄を少し放出しようかと申し入れてきています」
「あいつらが?」
めずらしく苦慮する表情を浮かべる掌砲長。
理由はわからないが、あまり頼りたくない、という心情が態度にあからさまに出ている。
「10年以上、食うに事欠いてきた連中だからな。
心情としては助けたくても、自分たちの備蓄を減らしたくはないはずだ」
食料が貴重だった鉱山の彼女たちにとっては、自分の血を抜いてわけあたえるようなもの、ということらしい。
それでも提供しようかと申し入れをしてくれたことだけでも十分にありがたいことだし、掌砲長としては受け取りたくはないのだろう。
「ハラ減りは不和の元だぬ」
アルゴは雑すぎるまとめ方をした。
そして、その雑な認識でもって、近場に『食えるもの』を見いだした。
「これ、食えないのかぬ」
指差したのは、生焦げの竜の残骸だった。
「言われてみればそうね」
工員全員を含むという膨大な人数に足りるかどうかわからないが、確かに眼前の肉塊は巨大で、見るからに食いではある。
「爬虫類みたいなもんだとして、毒はないのか?」
掌砲長は現実的な懸念事項を挙げる。
「弾体の残留物も無害とは限らん。聖別された神聖竜とか言っていたから、肉は早々腐らないのかもしれんがどうなんだ」
とはいえ、こと食料に関しては私を使えば『イリス様に害があるか?』を判定できる。
「私が試食すれば毒の有無はわかるわ」
「なら決まりだぬ」
「神聖竜って、食べていいもんなのか?」
どうだろう。
「神事では、捧げ物のクッキーとかは終わった後に食べてたから、大丈夫なんじゃないかしら?」
神社とお寺の区別もつかないけれど、そういう子供のころのふんわりした記憶はある。
「日本を基準に考えていいのか、これ?」
言いつつ首を傾げるものの、掌砲長は即断即決。
手をあげて周囲から食肉解体のために人足を集め始めた。




