ぼろぼろ艦隊へろへろ帰還
艦隊を残存したドックに引き込み、曳航してきたはしけから物資を陸へおろす準備を進める。
特に3番艦『佐渡<さど>』には、消防より太い排水管を抱えた工員たちが一刻を争う駆け足で大挙してむらがる。
「舵の利かない艦は曳航船を使わず陸から引くぬ。板舵班との連携をこまめに」
また、アルゴが4番艦『隠岐<おき>』に操舵を指導しに行っている。
隠岐は舵取り装置が不調で、艦尾に積んであった応急舵まで持ち出している。
とはいえ板を紐で引くだけの応急舵はあくまで応急、本当に使うとはほとんど思っておらず優先度が低くほとんど訓練もしていないこともあり、ふらふらどこかへ行こうとする艦を引き戻すのがやっと。
船体をドックに収めるなどという繊細なことはできず、陸の上からヒトと重機を集めて引こう、という話になっている。
『雷』発令所で誰かが言う。
「勝って帰ってきたとは到底おもえないですな」
まあ言われてみれば確かに、対地上とはいえ正規軍にほぼ無傷で勝ったはずだが。
帰ってくる頃には、長期航行だけでボロボロになっていた。
乗員たちは、勝利した当初は『圧倒的な勝利に華々しく凱旋』というイメージをして浮かれていた。
だが帰り道では連続運用長期化による不調の続発で、良くも悪くも落ち着いてきていたところに、帰還直前の母港空襲の報だった。
まあ乗員たちには勝利に浮かれて調子に乗られるよりは、厳しい現実を認識してもらっていたほうが良いわけだが。
先ほどは、乗員たちの想像していた以上に熱烈な歓待を受けることができたものの。
着岸作業ではなさけない実情を露呈し、所属艦船の長期運用が利かないという現実に直面させられていた。
とはいえまだ沈んではいないし、艦が残っているからには、やることはいくらでもある。
「はしけのうち、油送船はすぐに艦隊から引き離して。最低限の量だけドック地下の貯蔵タンクへ。
残りは液化木炭を積載状態のまま岸辺に係留したら放置でいいから」
「地下貯蔵庫へ移動しないんですかい? 次の襲撃があったらあっという間に燃え上がりますよ」
「燃料よりも艦の保護を優先するわ。そのときははオトリにしましょう。はしけごと洋上で燃やせばよく目立つ」
おとりは本当だが、口にはしない狙いとして、地下貯蔵タンクの秘匿もある。
この非常時に間諜が紛れこんでいれば設備とキャパシティがまるわかりになってしまうので、少しでも地中の設備状況を隠匿する。
どうせ燃料はしばらく必要にならない。
「『雷』と『択捉』のみ稼働状態で待機。ほかは損傷状態からして行動不能と判断して重整備、燃料も抜いていいわ」
最悪はこの2隻とイリスヨナのみ洋上へ抜ける。
あるいは絶対失えないイリスヨナはともかく、2隻は最後まで残って戦ったほうが後々の印象形成を考えると良いが、状況次第。
だが現状で本艦隊が抗戦したところで、イメージ戦略に利するていどにしかならない。
そもそも対空戦闘力のろくにない海防艦と駆逐艦で、疲労しきった乗員を乗せて防戦をねばることの有効性は怪しい。
「各員にはすまないけれど、休みはもう少しあとになるわ」
陸の状況もまだろくに届いていないが、フーカに推測できることも多くある。
「艦を整備に引き渡して、食料だけでも荷降ろしする必要があるから」




