VS騎乗竜空襲 / 幕間:試験飛行隊の飛躍
翠玉改設計機(仮称)『桃音』の12回目の試験飛行中に、それは起こった。
『隊長機より各機へ。造船所の付近で煙が上がっているぞ』
最初に気づいたのは隊長機もである、ふたり乗りの参号機。
並走する参号機がロールで示した方向の地上から煙が立ち上がると、不気味な柱が複数本に増えていき、たちまち夏の透き通る青い空へと伸びていく。
黒煙の周囲を自由に飛び回る黒い点は、ガタイの良い騎乗竜である重黒竜。
『空襲だ!』
遅れて、全機の受信専用無線から、眼下の光景よりもはるかにふわっとした状況説明が届く。
『地上試験本部より各試験機へ。地上でなにかあったようだ。試験は中断する。全機帰投せよ』
帰投せよ、という命令を受けて、逸ったのはユエル副隊長の乗った四号機の桃音。
地上の被害を見ておいて逃げるなんてもってのほかといわんばかり、クンと姿勢を変えて隊列を離れようとする。
そうして実験的な翼の高性能をいかんなく発揮してたちまち方向転換した桃音だったが、参号機にあっさり頭を押さえつけられてしまう。
高度をとって試験飛行を見ていた隊長機、参号機の『翠玉』は一瞬のダイブで機動性に優る『桃音』を操縦技術であっさりと制してみせたのだった。
そうやって隊長機は飛び出して頭を押さえると、ロールで翼を振ってわれわれ僚機を牽制する。
そして隣にまで寄ってきて、ハンドジェスチャ。
それから通信。
『これより試験飛行隊は、洋上の旗艦イリスヨナへ向かって飛行し伝令を試みる』
旗艦である古代戦艦イリスヨナは漁に出ているため、地上でのことに気づいていないかもしれないのは事実だ。
が、血の気で逸って武装なしに飛び出そうとした四号機を、なだめて突っ込ませない仕事を与えるための口実でもあるのは明白だった。
地上班の声にチカラがこもる。
『やるんだな、いま、ここで』
『いや。残念だが戦闘は無理だ。こちらは試作機。武装もない。航空隊の初陣はおあづけだ』
否定する隊長。
『だがおとり役くらいはできる。
騎乗竜を1騎でも引きつけることができれば、少しは時間をかせいで地上の被害を減らせる。
飛行隊には志願を募る。賛同する機は翼を振れ』
ユエル副隊長機は即応して『もちろん隊長についていきます!』といわんばかり、四号機の桃音が翼を振る。
伍号機は『翠玉』の単座仕様であるため、<コッツウォルズ>が判断を仰ぐべき同僚はいない。
桃音ほどの即答ではなかったが、悩んだ時間は逡巡というほど長くはなかった。
「やります」
聞こえなくても言葉にしなければ、操縦桿を握る手が恐怖で震えそうだった。
思わず翠玉の椅子に背を預ける。
息をついて少しでも気持ちを落ち着かせる。
呼吸がはやく浅くなっているのを感じた。
義姉たちがいない母港を、帰ってこれるように守らなければならない。
操縦桿から、絞るようなギュウという音がした。




