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幕間:末義妹<コッツウォルズ>ちゃんの周りの大人たち3

「後輪はタイヤとブレーキを交換したんで、必ずタキシング中に効くことを確認してください」


酒屋でユエル副隊長が潰れた翌日、<コッツウォルズ>は整備士とともに桃音の後部脚を覗き込んでいた。

書類とタイヤを交互に確認する。


「ユエル副隊長は着地が雑なんすよ。飛んでるときはスカッとする飛び方するから見てるぶんにはいいんすけど。

<コッツウォルズ>ちゃんはきれいに着地すっから整備としても気持ちいいんすよね」

「ありがとうございます」


そのユエル副隊長は飛行禁止のきょう、点検で飛ばない翠玉伍号機のメンテナンス要員にされている。

整備長の小間使いとして背を丸めながら後ろをついて歩いている。


「ユエルぼさっとすんな。次はエンジンだ。カウル外すから手伝え」

「うっす、であります」


イリス漁業連合の操縦士は、全員が機体整備の手伝いができる、技術操縦士。

操縦だけできる飛行士はいらない、というのがイリス漁業連合の意向。


正確には、職責は絞りたいが飛行専業でヒトを雇う余裕と仕事がない、とヨナさんは言っていた。


フーカ様が最初に言っていた。


「最初に言っておくけれど、あたしたちが求めているのは試験飛行操縦士。

機体コンディションと事故状況を説明もできないバカを乗せる機体の余裕はないわよ」


機体整備を手伝いながら自機の状態を把握して飛行に備え、試験飛行のレポートが書ける、整備技術と機体設計に理解がある試験飛行操縦士。

いざ不具合が起こったときには冷静な判断と行動で生き残り、事故状況を正確に伝えて残し、原因究明に寄与する。


高すぎる理想であるのはわかりきっているため、あくまで目標として目指し座学とトレーニングをする、というものだが。


「とはいえ、ジェネラリストになることは求めてないわ。

せめて機体を操縦するのに必要な知識くらいは覚えなさい。

それに、あたしたちにはまだハンドル握ってれば飛べるような飛行機を作れない。

どうせそもそも技術理解がなければ飛ばせないシロモノなんだから。

あんたたちは技術理解しなければ飛べないし、理解したなら地上でも空でも役立ってもらうわ」


何より人手不足なので、整備の手を動かすことのできる、機内の清掃といった雑用を片付けられる人材が重宝される。


元騎乗竜乗りが増長すると組織が乱れるから、というのもあると後から聞かされたが。

整備長いわく『上げ膳据え膳でドラゴンに乗っていた横暴な王様のようにつけあがっている元若造ども』が当時のまま振る舞ったら、周囲が苛立つのも当然だという。


もちろん菱川重工廠の倉庫でそんな振る舞いをしようものなら、整備長以下『ドワーフ』技師に、文字通り頭蓋を握り潰されるが。


翠玉伍号機のエンジン覆いを外すために集まってくる大柄な作業員たちを見て、ユエル副隊長は小声で愚痴る。


「っていうかドワーフって小柄なんじゃないのかよ」


ところが眼の前にいるのは、2メートル近くある鬼種族。

彼はケタケタと小馬鹿にする笑いをしながら答える。


「なにいってんだ。お前が言うとおり、オレは小柄だぜ。

なにしろ俺のジイちゃんは3メートル超えてたんだからな」


それではまるで神話時代の巨人だ。


「魔術師に生身で突撃カマして死んだけれどな。

呆けてシモ垂れ流しながらヘッピリ腰で散歩する余生だったのが、労働闘争が始まるとすくっと起き上がってな。

ガキの俺は荷運びしながら後方から、ジイちゃんが魔術師の火炎弾で燃えて吹き飛ぶ瞬間を見てた。

最高に格好良かったぜ」


その英雄譚は彼の持ちネタみたいなもので、心から尊敬する親類の勇気ある死をあまりに熱っぽく話すものだから、<コッツウォルズ>も品や是非はともかく、おじいちゃんちょっと格好いいなとは思い始めている。


「親族の死に様を格好いいとか、正気じゃないな」


ユエル副隊長は喧嘩を売っているともとられかねない言い方をするが、相手はそう揶揄されることすら誇らしげに、ゲラゲラと笑うだけだった。


「鉱山労働者組合の連中とは前から付き合いがあったけれど。

小柄な『ドワーフ』もお前らも、本当にお前みたいなヤツらの集まりなんだもんな」

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