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古代戦艦イリスヨナの驚異の演算能力なら無限ループが6秒で飽きる

「あー、退屈。最近は風洞ばっかり。参っちゃうわね」


イリス様の膝に頭を抱きかかえられて夢心地ではあるものの、いちおう仕事中なので、イリス様の太ももをむにむにしたり頬ずりしたりに熱中するわけにもいかない。


「艦船のほうは既存設計での建造がメインですからね。駆逐艦の設計改修の検証までは、シミュレーションの出番はありませんよ」

「いまが退屈ってだけで、べつに艦船の計算なら嬉しいわけではないわよ?」


艦船のシミュレートをしていた頃は、船ができるということに夢中でひと晩中でもエキサイトして眠れないくらいだったのだけれど。

飛行機には興味がないから風洞シミュレーションはひたすらに退屈。


さらにいうと、ミッキが行う飛行機の風洞は、ちかごろ3Dモデルを逸脱してきていた。


「掌砲長がしている、マテリアルの原子モデル解析よりはわかりやすいと思いますが」


確かに、あれに至っては本当に3Dモデルなんて影も形もなくなっていた。

風洞のようにわかりやすく図示できるものすらないから理解のとっかかりすら掴めない。


『特定箇所の2次元断面をカラーマップへ写像』した画像を見ても、図中に現れる赤色水玉の意味すらわからなかった。


掌砲長本人から、11次元拡張された原子モデルのアナログ重ね合わせ演算、がどうとかこうとか説明をしてもらったが、もうなんにも覚えていない。


ともあれ、意味はわからなくとも計算はできる。


古代戦艦イリスヨナの演算能力はここまで、入力されてきたあらゆる計算処理を一瞬で終わらせてきた。

シミュレーションで時間がかかるのは常に、計算方法の設定と数値の入力という作業だった。


ミッキの手には原始的なテンキーのようなもの。

古代戦艦イリスヨナの床にある接続ピンにつながったそれは、ピンのON/OFFをまとめて操作するためのもので、直接数字入力とまではいかない。

制御人格ヨナへ向かって数値をひとつずつ音声入力して復唱していた頃からすれば、格段の進歩だが。


職人お手製のオーダーメイド、当然に汎用性などあるはずもなく、古代戦艦イリスヨナの計算リソースへアクセスするためだけに、作るのにいくらしたのか見当もつかない専用品。

キーボード制作を手配してくれた掌砲長が、自分の当直を適当にサボりつつミッキが入力する様子をみてくれている。


「やはり、古代戦艦イリスヨナを使った演算は、入力と出力がいちばん時間がかかりますね」

「そのためのキーボードと、多次元アナログ波形の重ね合わせシミュレーションモデルだろ」

「結果の解析にかかるコストが増大傾向にあります」

「計算による条件判定で、しきい値を有無に射影変換すればいい。計算式もいくつか提供しただろ?」

「簡単なものであれば私でもなんとか。ただ計算モデルの入力もコスト高ですからね。

ぜひ変換検出計算を使いたいモデルがあるのですが、私では手におえないので後で条件によるフィルタ演算が可能か見ていただけませんか」

「わかった」

「船体の形状による流体力学解析はモデルシミュレーションによる総当りで、連続値の演算とするのは容易ですが、原子モデルにおけるMolの個数は離散値なのでは?」

「だからこそ写像変換で連続値に落とし込むことで計算結果の密度が上がる。無限いっこぶんくらいな。

まあ、イリスヨナの演算能力を前提にした話だ」


無限に個数なんてあるのか。


「無限ループさせるつもりだった演算が一瞬で終わったのは傑作だったな」

「最初は計算が中断されたのかとも疑いましたね」

「あれは無限が小さすぎた。疑似無限だな。ちゃんと大きい無限を使ったら終わらなくなっただろ」


無限のサイズというのは意味がわからないし、私には『無限は無限なのでは?』としかならないが、掌砲長とミッキの間では意味が通じるらしい。


「あれは確かに面白かったです。古代戦艦イリスヨナがフリーズしたらお手上げなのではと危惧はしましたが」


それは確かに困る。


「そこはさすがに、事前に機関長に相談したさ」

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本作に登場する架空艦『古代戦艦イリスヨナ』を立体化! 筆者自身により手ずからデザインされた船体モデルを、デイジィ・ベルより『古代戦艦イリスヨナ』設定検証用模型として発売中です。
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