朱雀招来2
「で、始祖鳥を呼べと言っといてなんだが、どうして魔術初心者の練習で始祖鳥の上級召喚なんて高難易度なことやってるんだ?」
掌砲長は疑問符を浮かべる。
この前の戦闘で私にも魔力が見えるようになったので、魔術を習って常識と魔力を鍛えようということになった。
停泊している古代戦艦イリスヨナの後部格納庫で天井を開いて、始祖鳥の羽根の化石に魔力を込めるイメージからはじめて、練習を繰り返すこと3日目。
といっても魔力量が微々たるものなので、1日1回で3回目なのだが。
「難易度なんてあるの?」
分類とかあったのか、というか上級って何。
「幻想生物ほどでなくとも、少なくとも現存しない生物だろ。召喚術の初心者向け課題じゃないって気づけよ」
いきなり難易度高かった?
「誰の考えたカリキュラムだこれ」
「知らなかった」
掌砲長に答えたのはイリス様。
「わたしはすぐできたから」
「そりゃあそうだ。古代戦艦イリスヨナの制御人格を一発本番で召喚してみせた天才だからな」
掌砲長はどちらかというと感心するより呆れていた。
「ついでにボディまでついてきたのは、文字通り前代未聞なわけだが」
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翌日、あまりに魔術訓練の成果が出なかったため、4日目は見学者がさらに増えた。
スイとフーカ、トーエとチセだ。
「魔術の練習なんて見たことないですから楽しみです」
「はたから見たら、ヨナがひたすら額にシワ寄せてるだけだけれどね」
そのうえ私が上手くやると周囲に魔力が飛ぶので、魔力がなくて耐性の弱いスイは見学もかなわずもんどりうってひっくり返るかもしれない。
「魔術は家系ごとの秘伝や体質があるから、親が教えることが多いけれど、ヨナにはイリスが教えてたのね」
「へえ。でもそうなら、トーエはチセの魔術の学習ってどうしてるの? やっぱり自分で教えてるわけ?」
「機関長が教えてくださるそうなので、おまかせしています」
「いろいろ教えてもらってる。でも練習禁止って言われた」
『初心者が失敗してもせいぜい魔力が暴走するだけだが、神隠しの子が呪文を言い間違えたら何が起こるかわからんからな』
あと機関長が機関室からリモート参加というか監視している。
「というか始祖鳥の使い魔がほしいだけなら、ヨナにやらせなくてもイリス、あんたが羽根化石を使って召喚すればいいじゃない」
「ヨナにあげた羽根だから。それと、わたしがやってもヨナの練習にならない」
それは確かに、と言ってフーカが腕を組む。
「そもそもヨナの魔術的な類別ってどうなってるのよ。
イリスの使い魔なら、使い魔に使い魔を呼ばせることになってイリスの消耗大きいでしょ」
「イリス様、そうなのですか?」
「ヨナは使い魔じゃない」
「つまりリセットは起こらないわけね。練習にならないって言うけれど、教育なら見本くらいは見せたほうがいいわよ」
イリス様の魔法少女姿、見たい。
「イリス様が魔術を使うところ、私も見てみたいです」
「わかった」
ふわっと空気が舞って、儀式用の塩に触れたイリス様の指先から、鮮やかな色の始祖鳥の羽根が手品のように生えた。
無言。
「えっと、イリス様? もっと光るとか、呪文を言うとかはないんですか」
「?」
「まったくだわ。魔法陣なし無詠唱、触媒だって場にあるだけで触れずに済ませるなんて、初心者にはなんにも参考にならないじゃない。
魔力も漏らしてないから耐性のないスイだってピンピンしてるし。スイが気を失うくらいダダ漏れでやらないとヨナにはわからないでしょ」
「えっ、そうなるのわかっててやらせたんですか!?」
「スイ、あんたもいいかげん魔力に慣れなさい」
フーカが平然と言い切るものだから、スイがひどいひどいと腕をつかんで揺すった。
「フーカだってたいがいスパルタよね」




