438/630
錬金術師の電気釜1
試作電熱炉の壺は、ヒトの大人がすっぽり入って余裕のあるサイズ。
「ヨナ、やってくれ」
「じゃあ電気流すわね」
港湾に着岸している古代戦艦イリスヨナの開いたハッチから、太いケーブルの束が丘の向こうまで伸びている。
艦内の接点にケーブルの端が締め付け固定されていた。
イリスヨナから警笛を響かせてから、電流を流す。
しばらく待つと、壺の周辺の空気が熱で歪む。
「材料を入れてくれ」
「へいお嬢。おいお前ら!」
周囲の工員たちが、慣れた手つきで壺の中へ鉄片を放り込んでいく。
たちまち赤熱し、チョコレートが溶けるように硬い鉄が液体になる。
「実際1人くらいなら余裕で溶かせる熱量があるぞ」
「怖っ!」
掌砲長に脅された気分。
「始めるぞ」
掌砲長の目の前には平らにした砂場。
掌砲長が魔力をこめるとたちまち細い溝が掘られていく。
上からは見えないが溝は地中へも伸びている。
「よし、流し込め」
工員たちは恐れを見せずに電気釜を傾けていく。
「「「せーの!」」」
大柄な男たちが群がる絵面とは逆に、繊細で正確な等量の流し込み。




