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解決編3 / レインの告白、私の復讐のために

「義母が放った暗殺者が私の家族を殺し、その口封じに失敗したというのが、今回の暗殺騒動の顛末です。

依頼は天使長が私の名前で行い、暗殺者は私のところへ直接復讐に赴いたと。

ヨナ様との面会のタイミングで襲撃があったのは、いつもは私に護衛がついているからですね」


そういえば確かに、襲撃があったのは『いまは護衛を外している』と話した直後だった。


「暗殺者については納得しました。

もう片方、私をめった刺しにした『絡女蜘蛛』というのは、一体何だったのかしら」


「あれも私を孤立させるための、天使長の仕込みです」

レインは結論を簡潔に言ってから続ける。

「先に『絡女蜘蛛』という悪霊について説明するのが良いかと思います。

蜘蛛人、アラクネと呼ばれる蜘蛛の女は、見た目の印象と古い伝承から、情が深く執着と束縛が強い、と世間では思われています。

実際はそんなことはなく、他のヒトと同じように個人差があるだけなのですが。

『絡女蜘蛛』は、古い伝承の一つであり、それに登場する蜘蛛人の女とその妖怪です。

『情愛の関係にあった男が他の女と結婚したので、蜘蛛の糸で絡め殺して肉を食った』という、アラクネ話としては類例の多いありきたりな内容です」


なるほど。そんな話が蜘蛛人にまつわる定形のストーリーラインとしてバリエーション豊かに語られているから、そういう思い込みをされてしまうわけか。


「今回あらわれた『絡女蜘蛛』は、その悪霊の複製品です。呪術兵器の一種ですね」

「悪霊を兵器として運用するの? この世界では」

「はい。

妖怪や悪霊は、多くが純粋な魔力的存在ですからね。

構造も人間の魂ほど複雑ではありません。

魔力を複雑に操る才能があれば、悪霊の複製を作ることや、その呪う相手を変えるといった改造もできるのです。

もちろん高等技術で、誰でも扱えるものではありません。

ですが、教会では悪用されたとき対抗できるよう、それができる悪霊使いのハイクラス呪術師を抱えています」


そんな発想は元の世界でも聞いたことがなかった。

けれど、魔法や悪霊が実在するこの世界では確かに使い方によっては強力な兵器だ。


「今回の『絡女蜘蛛』は、おそらく私に憑いていたものです。

改造で執着を私に向けさせて。

暗殺が目的ならば、悪霊が動くのは夜中に設定されていたはずです。

ですが、あのときあの場は戦闘で呪術と死で状態が乱れていました。

だから悪霊が暴走して白昼あの場で発動したのでしょう

目的は、私の周囲から親しい人間を排除すること。

そして、そんなことをするヒトは、天使長以外にいません」


レインは目を伏せる。


「私はヨナ様に謝らなければいけません。

私はあのとき、ヨナ様に親しみの感情を覚えたのです」

「あんな状況だもの。当然じゃない」


吊り橋効果だ。ヒトの本能にあらかじめセットされている、一瞬の気の迷いみたいなもの。

あるいは一緒に危機を乗り越えた相手と友情が芽生えるのは自然なことだ。


「でも私は、義母の娘として、その感情を許されない立場でした。

だからヨナ様に迷惑をおかけした。

命の恩人を、私は殺すところだった」


孤独に追いやられ、心を寄せた相手を傷付ける呪いを課せられる。

残酷なことだ。絶対、あってはならないほどの。


「実は私の周辺では、かなり前から変死が続いていました。

教会で直々に調査しても呪術的原因は見つからず、犯人はいない偶然や不運だろうとされていたのです」


エーリカ様、そんな噂のある娘と親しくしていて、私に紹介もしたのか。

怖いもの知らずなのは良いところだけれど、もっと自分を大事にして欲しいし、私を巻き込むのはやめてほしい。


「犯人も呪いの術も、見つからなくて当然です。犯人である天使長みずからが捜査していたのですから」

それは、そういうことになるか。

「天使長は敵も多いですが、義理の娘の私ひとりをどうこうするのに、こんな絡め手を使う必要はありませんからね」


天使長が捜査していたならば、あのヒトを騙せる相手がレインを狙ったということになる。


「私の親しくしてくれた食堂の娘、相談に乗ってくれた司祭様、同室だった口の悪いイリア、名前も覚えていない乳母さん。

みんなみんな、私が親しく思ったばかりに、殺してしまった。

あるいは私に憑いた悪霊は、魔力を無駄に使う実体化はせず、夢遊状態の私を使ってこの手で直接」

「レイン、それはあなたじゃないわ」


いまの私には、声をかけることしかできない。

レインが心の奥底に隠さなければならない深い絶望と怒り。


「だから私は」

その壮絶な表情を私は言葉にできない。

「私は両親のカタキである我が義母、あのクソ天使長をぶっ殺してやろうと考えているんですよ」

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