Girl's Surface3 / わたしはここにいる
ロイヤルが指摘したのは組織の問題とは別、道義の話だ。
スイは、他人がした指揮の責任はおえない、などとつまらないことも言っているわけでもない。
「わたし、艦隊の提督で、責任者です。責任者の仕事は責任をとることです」
ヨナの意見は違っていたが、スイがそう決めたならヨナは止めない。
「だからってあなたに作戦立案は無理でしょう」
「はい。スイみたいに勝つのは無理です。
考えるにしても、わたしが知っていることはぜんぶフーカが教えてくれたことです。
ほかになにもありません」
スイにも漁村の娘としてこれまで生きてきた人生がある。
だから何も無いというのは言い過ぎだが、艦隊という大組織の運営に役立つ経験など村娘に皆無なのは事実だ。
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「ヨナさんはわたしに、自分で考えて、自分で決めろって、よく言いますけど」
「ああ、あたしもそれは言われたわね」
あたしの命を握った状態で。
事実上の選択肢がない状況で、ふつうの相手にやったら脅迫だが。
ヨナはつねにお構いなしで相手に『自由意志を強いる』、そういう女だ。
「もちろん自分でも考えますけど、フーカのほうがうまく考えられるってわかってるのに、あえて自分で考えた方法にこだわるのは違うなって」
そしてスイは特別ではない。
「でもこれって、きっとヨナさんやロイヤルからしたら、私はなにも考えてないってことになるんですよね」
「あんたはどうなの、誰かの言いなりになるのは嫌じゃないの?」
「いえ別に。不快な目にあっているなら違いますけど。
むしろ良い暮らしをさせてもらって、みんないいヒトたちで、命がけですけど、それでも続けたいって思えるくらい、いま幸せです。
だから、わたしは考えたんですが、ヨナさんとフーカを信じます」
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「だから、わたしはフーカを信じることにしました。
フーカの判断、したことの責任は、フーカを信じたわたしにあります」
それでも『責任があります』という言い回しで『責任をとります』と言わないのはヨナの影響だろう。
ヨナは不可能なことを約束しない。
あたしたちの判断の結果、失われた死者を生き返らせることはできないからだ。
「あたしには自分の目的があるし、ヨナもあなたとは違うことを考えているわよ」
あたしは危険球を投げる。
スイはヨナの最終目標を知らない。
だけれどスイは、さっぱりと答えた。
「ヨナさんとフーカになにかされたら、私にはどうしようもないんですから、どっちでも同じです。
だったら信じたほうがいいです。信じられますから」
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「これが、わたしの自由意志なんでしょうか?」
「悩んでいるうちは違うかもしれないわね」
口から出る言葉とは反対に、あたしはスイの瞳に確かな意思の存在を見つけていた。
決意とか覚悟ではないけれど、確かにそこにあると信じられるものだった。
「それで、あなたはどうしたいの」
返事を待つ。
待たされることはなかった。
「わたしはフーカを信じることにしました。それがきっと、わたしの意思です」




