Girl's Surface1 / Red Magic Insider(ones)
「わ、フーカ」
話を終えた航海課長が去り、あたしが姿を表すと、スイは考え事を中断した。
「もしかして、ずっと見ていたんですか?」
「ええ」
「立ち聞きなんて、らしくないような」
「あたしだってさすがに打ち明け話に気を使うくらいはするわよ」
「でも盗み聞きですよね?」
「バレなければ秘密のままでしょう? そして、あたしはバレるような失敗をしないわ」
「それ、まさか気を使ったつもりだったりします?」
ロイヤルがいたらツッコミ入れられてますよ、とスイ。
「部下の乗員に秘密の打ち明け話をされるなんて、艦長らしくなってきたじゃないの」
「どう受け止めたら良いんでしょうか。よくわかりませんでした」
打ち明けて楽になりたかったのか、答えがほしかったのか。
負けた側の経験があるからこそ『今回は勝ててよかった』とか『次も勝ちましょうね』と言いたいだけかもしれない。
艦長のスイを選んだのか、誰でもよかったのか。
推測はできるが、あまり意味はない。
秘密を打ち明け共有する仲になった、という事実が重要だ。
「航海課長の話で悩んでいるのもそうなんですが。
ロイヤルが言っていたことを思い出していたんです」
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「フーカ、自由意志ってなんですか?」
「そんなものは実在しないわ」
あたしは即答した。
「フーカは好き勝手しているように見えますけど、フーカも自由意志がないんですか?」
「あたしは自由よ。自分の意志で判断してる」
「?」
「なぜならあたしがそう確信しているから」
姉のもとから去ったのは、居られなくなったからではなく、居たくなくなったから。
ヨナの誘いに乗ったのは、命を握られて強制されたのではなく、自分で選んだ。
「自由意志っていうのはね、ヒトがそれを求めた時には心の中にあるのよ。
だから普段は存在しないし、あたしの中には存在する」
ヒトの情動は外部からのイベントにより生起されるし、どう感じるかは記憶で決まる。
そして記憶も環境という自分の外から与えられたものの集積だ。
大河もヒトも、すべては流れのままに。
為政者の弾圧に立ち上がり自由を求める情熱も。
呪われた宿命に抗うことをあきらめ飲み込まれる諦観も。
3代続いた家業を継いで守ろうという決意も。
希望を抱き運命を切り開こうとするヒトの意思でさえ。
人生経験で決まるからといって、意思のない人形ということにはならない。
与えられたから偽物ではない。
自分で掴んで手に入れたものでも、原料をたどれば外から来たものであり無から発生したわけではない。
自由意志と決定論的世界観は対立概念ではなく、世界の見方の違いにすぎない。




