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艦隊寄港地の夜4 / 航海課長のひみつの打ち明け話

「提督は入浴上陸されないのですか?」

「えと、はい。知らない人と肌を合わせに行くって、よくわからなくて」


スイが旗艦『択捉<えとろふ>』の甲板でひとり、手すりに指をかけ、街明かりを眺めながら夜風を浴びていた。


声をかけたのは、スイと同年代の少女、択捉の航海科長だった。


「田舎はどこもわりと開放的だと言われていますが」

「どうなんでしょう。わたし、お母さんが死んでからは周囲からちょっと距離をとられていたので」

「そうでしたか、すみません」

「いえ、別になにかつらい目にあったというわけじゃないですよ。

母親から家事とか教わってない娘は、嫁にできるようになるまでに時間がかかるって、貰い手がわに敬遠されていただけです」

「すごく田舎っぽい理由ですね」

「そういうものなんでしょうか。わたしはこことあそこしか知らないから、よくわからないんですが」

「普通は1つの所しか知らないで一生過ごすんですよ」

「航海科長も、入浴上陸しないんですよね?」

「ええ、わたしは」


航海課長が、それとなく周囲のヒトの気配を伺う。

話題が変わり、秘密の話が始まるのがスイにもわかったようで、手すりにかかった指にそれとなく力がはいる。


「今回、上陸作戦に参加してよかったと思います。

作戦課長の推薦だったのですが、昔のことを乗り越えられた気がします」

「昔のこと、ですか」

「村を襲った野党と寝たことがあるんです」


無言。


「私の村が野党に襲われたとき、父は村長だったのですが、抵抗する自警団の長でもありますから当然最初に殺されました。

村は野党たちの手に落ちて、あちこちで火をつけられて、男に襲われる女とか、子飼いの魔獣に村人を食わせたりしていて。

幼い私には、はじめて見る怖いものばかりでした。無法に蹂躙される村の光景としては、ありきたりなものなんですが。

降伏して村のものはぜんぶ差し出して命乞いをして、それで村長の妻として母親が野党と交渉をして。

母は服を破かれて乳が出たままの格好で家に戻ってきて、言ったんです。

野党の長と一晩すごすように約束をとりつけてきたって。

その男の機嫌を絶対に損ねてはいけない、処女だと言って、言われたとおりに奉仕して喜ばせろって」


無言。


「あれは、なんだったんでしょうね。いまでも整理がついていません。

わたしは自分でそうしたのか、母親に強制されたのか、あの男に無理やりされたのか。

あのとき母が何を考えていたのかもわかりません。

村や自分のために娘である私を差し出したのか、私を他の男たちに乱暴に傷つけられる危険から守ったのか。

まあ、よくあるといえば、よくある話です」


話は終わった。


「そうですか」


スイはそれだけ言った。

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