艦隊寄港地の夜2 / 幕間:自壊寸前ぼろぼろ艦隊
夜の大河洋上、星あかりを受け寄港地の街の灯を背景に屹立する、雄大なシルエットを影にした艦船たちの艦隊。
「旗艦『択捉<えとろふ>』、4番艦『隠岐<おき>』は主機故障のため片肺運転。
3番艦『佐渡<さど>』は浸水が止まらず、沈没しないよう排水ポンプを非常増設まで含めすべて全力運転中。
命中打を受けた2番艦『松輪<まつわ>』は喫水上の艦首に穴、乗員生活区画など艦首側機能を一時的にほぼ喪失。
駆逐艦『雷』は副砲の砲身が部材不足で刺し直しできず、武装が主砲1発のみの状態」
しかしその内実はボロボロ、まさにほうぼうの体というありさまだった。
ロイヤルは書類業務から派生した仕事として、いまは艦隊の現状把握につとめていた。
「戦闘は無理。
全艦残存しているのは奇跡みたいなものですわね」
それも、ほとんどの障害は戦闘によるものではない。
そもそも海防艦『択捉』級はその名に冠する『近海域防疫漁業艦』の通り、長期航行を想定していない。
ネームシップたる初期艦『択捉』に至っては、人類初の『人造艦船』で計画要求はとにかく浮けばよい、と作られた代物。
移動しながら寄港地での整備には限界がある。
計画されている工作艦『明石』の建造は船体基礎に『双択捉<ついえとろふ>級』を必要とするためまったく原資が足りていない。
艦隊建造計画である『択捉計画』のタイムスケジュールは、外乱による事業計画変更を繰り返しという嵐の中心にありながら、不気味に進捗を守っている。
「はしけは調査のたびに障害が増えてます。きりがありませんよ」
疲れの色が見える。
すぐできる外観確認だけでも増員する必要がある。
「フーカが把握していない事実が増えるほど、艦隊の危険は増しますわ。
ここは水上。わたくしたちの領域にいるのですから、もうひとりも欠けず、1隻も失うことなく母港に帰らなければなりません」
場の空気がきしむ。
「我々はすでに、2番艦『松輪<まつわ>』を失ったのですから」
緊張気味にぴりりと引き締まるのは、この場では必要なことだった。
艦隊は長期作戦に対地戦闘で1隻も失わなかったが、母港を守っていた『松輪』は失われた。
速達が届き、古代戦艦イリスヨナが急遽、艦隊を迎えに大河を遡上して向かってきている。




