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VS地上夜戦 / 幕間:眼前敵の価値を / 荒ぶる古代戦艦と鎮守の乙女たち

芯の曲がった日本刀の先で、敵兵の身を突いて切り開く。


アルゴに死体を辱める趣味は一切ないが、しようとしていることは、最大の辱めと受け止められうる行為だった。

いちばん最後に死んだ新鮮な若者。

鹿狩りのような血抜きはしていないが、失血死する殺し方はアルゴの癖になっている。


手慣れた手付きで、死体の『調理』を進めていく。


やがて日本刀の肌の上に、綺麗な切り身が現れる。

きらきらと、てらてらと、みちみちと。

鍛えられた合金のきらめきと。

上塗りに赤い熱をまとわせる黒い濃血と。


戦闘のために鍛えた肉体から切り出した、豊かでかつ引き締まった赤身の肉。


平穏な暮らしと優しい食事ですっかり平らに均された歯が、戦いのあとに肉を噛みしめるための八重の鋭さを思い出そうとして、むずむずと身じろぎする。

口中に唾液よりも濃い体液が満ちる。


北の果て、雪山に追いやられて霊峰が隙間なく並び立つ土地で外敵に内乱に戦い続けてきた。

冬山ではあらゆる肉が貴重品で、永い土地と永い血は禁忌よりも古く、故郷を逐われたあの日のアルゴは下山装備など持ち合わせていなかった。

だから。


でも違う。


「いかんぬ。『ヨナ様』に宗旨替えしておいて、こんなものを喰うなんてよくないぬ」


ヨナは言う。

敵とは尊ぶべきもの。

尊ぶに値する相手のみに与えられる尊称だと。


そしてヨナ様は、敵を喰うなとは言わなかった。

敵は『鎮守』するものだからだ。


「こんなつまらない肉を口にするなんて、ダメだぬ」


大きな災厄をなし、粉砕打倒してなお恐怖の対象となる『敵』の偉大さを認め、その魂の怒りを鎮め、敬い、時にその力を譲り受けて自らの新たな守護とさえする。

それがヨナにとっての鎮守。


艦隊指揮所は、日本では鎮守府と呼ばれた。

巫女への愛で荒ぶる古代戦艦イリスヨナを、囲い鎮める乙女たち。


あの飢えた雪山とは、血肉の価値が違う。


たかが殺戮手ひとり、囲って殺すことのできなかった兵士たち。

イリス漁業連合の、ヨナの敵にはとうてい値しない。


ヨナはエーリカ嬢のように自分が認めた人物、尊ぶべき強者だけを『宿敵』と呼ぶ。

侵し奪うに値しないただの障害物を喰うなど、ヨナの麾下として、とうてい許されることではない。


艶めかしく血のように赤い舌がケダモノのように肉を求めてうぞりと震え。

それだけで魔術となりうる魔族の古語を発する。


『ヨナ様の麾下へ喰わえるには能わず』


刃の上の丁寧に処理された綺麗な切り身。


「そもそもヒト種は程度の差はあれ、どの種族もひととおり血は臭くて肉が不味いぬ」


次の瞬間、未練を断ち切るように大刀が振られ、汚物のように払い捨てられた。

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