VS地上夜戦 / 幕間:殺戮手は日本刀と踊る1
騎兵が騎馬ごと両断。
粉砕された血肉を浴びた可愛らしい少女が穏やかに笑む。
一瞬遅れて騎兵が叫ぶ。
「突撃!」
周囲の仲間も戦場とはとても思えない軽装だが服装は共通である中、ひとりだけの異様な武装をしている。
登場してすぐ、真正面から騎兵を馬ごと両断する戦力。
守備の要であることは明らかだった。
これを打倒せずに砲を狙うこともできるが、対策されているのは明らかだ。
ならば敵の策を正面突破、活路はそこにしかない。
「一騎打ち!」
駆け込んでくる馬足の速さが乗った魔術剣を、アルゴは無言で騎手ごと両断。
半ばで切断された刃の先だけが飛んでいき移動砲の装甲に突き立つ。
「こらアルゴ! 真面目にやれ!」
後方車内から顔を出さない少女の声だけがする。
「あー、すまんぬ」
視線をそらさず答えるアルゴ。
精鋭の兵士である彼らは、試してみて割に合わなかった一対一にはこだわらない。
「「「3騎駆け!!!」」」
アルゴはひと振りで3騎を捉える。
端のひとりは馬の足、真ん中を両断、もう片端は剣を持つ腕を剣先にひっかけて飛ばす。
細長い剣のリーチを最大限に使い、まるで3本の迫る剣はなかったかのように一方的な振る舞い。
そのあと数度、接触するたびに一方的な損害が増える。
戦いに目が慣れていない者でも動きがわかるほど、ワルツを踊るようにゆったりと動く。
目に映らない速度の超絶技巧などなかった。
ただ数度だけ、剣先が弾かれたように孤を描いて、その時だけは刀が膨れたような残像が残る。
「その剣、魔術具か!」
「模造改造贋作日本刀だぬ」
一瞬の放射、なまじ魔力に感受性のある者にとっては目を焼くような閃光、まばゆいばかりの光の奔流としか認識できない。
速さはいらない、相手から馬の駆ける速さで飛び込んでくる。
正確さはいらない、切るべき相手はヒトサイズの大きさがあるのだ。
先読みはいらない、どうせ1振りで切れるのはひとりずつ。
戦術もなにもない、場はすでに作戦部長と砲手が整えた後、相手から勝手に飛び込んでくる。
従騎兵に守られた男が叫ぶ。
「見たことのない武具もそうだが、貴様の剣技も見事、だが弱点も見えたぞ」
細い剣は見せかけ。
一見して魔力をこめるのに必要な重さが足りないように見えるが、根本の太さと異常なまでの刃渡りの長さで最低限の質量を確保。
油断している相手に防具に見せかけた『攻勢腰当』から備蓄魔力を強制的に流し込み、切る一瞬のみ強化する。
もちろん欠点は多く、過剰な魔力を流し込まれることでたちまち武具として消耗。
「弱点、まあ見えて当然だぬ」
しかしアルゴは動じない。
しかし芸術品のような刀身は、消耗品にするにはあまりに高価なはず。
強いのは確かだが連戦に向かない初見殺しなところがあり、数を揃える必要のある戦争では使えない。
「ところであなたが大将首かぬ?」
聞き慣れない言い回しに訝しむ。
「名誉がほしいか、もし一騎打ちが」
「いや、頼むから戦闘には混じらないで欲しいぬ。
撤退なり集団戦なり、指揮を保ってくれたほうが業務が楽で都合がいいぬ。
乱戦をさばくのはともかく、全員殺すまで面倒だぬ」
その言葉が心理戦なのかすら判然としない。
一騎打ちも乱戦も選択肢として考えていたが、迷わされたのはこちらだけ。
だが言葉での動揺を誘うのが難しいことはわかった。
あまりに価値観が遠すぎる。




