VS地上夜戦 / 幕間:開戦開幕、先頭突撃
戦闘に入ったのは、避難民を収容して2日目の夜だった。
交易路に敷かれた敵の検問との接触は、これまでの偵察隊との突発的な遭遇とは性質が異なる。
相手は簡易ではあれど陣地に守られており、こちらが攻める側だ。
「前衛より、敵防御線の木柵を撤去して突撃を支援して欲しいとのことです」
「了解した。支援砲撃の後に突貫する」
答えた車長は乗り出した上部ハッチから前を見て言う。
「お嬢、エーリカ嬢が最前列で突撃箇所に取り付きました。ご丁寧に戦斧で柵に切り込み入れてくれてますよ」
木杭によるバリケードは歩兵や騎兵の突撃によく耐え、生木がいくらでも生えている森の中で簡易検問を作るのには最適。
エーリカ嬢なら戦斧で叩き折れるのだろうが、なにぶん疎な構造の突撃防止柵なので、数度ふるって破壊するのが面倒なのだろう。
「操縦手、顧客のご要望に答える操舵を期待していいか?」
「あんまり前見えないです!」
「車長、よろしく」
「誘導しますんでアクセル踏み込んでください!」
「わかりました、主機全力運転いきます!」
用語は車両と艦船のちゃんぽんになっている。
イリス漁業連合は艦船主力であり車両要員は麾下にとりこむ形で、職員がほとんど艦船畑なので。
「安定して全力出るのはうらやましいですよね、怖いですけど! 早い!」
「択捉と比べたらトロいもんだぞ」
砲を積み込んで重量マシマシの試作猪熊重戦車は20km/h程度が全速だ。
対して択捉なら全速で40km/h弱出る。
まあ周囲に比較物のない海上の海防艦と、路上に敵味方が入り乱れて車体と擦れる戦車では、体感がまったく異なるのは当然なのだが。
「榴弾、装填よしですぜ!」
「次の直線が」
「いらん。操縦手、一瞬だけハンドル固定で」
「ひゃい!」
エーリカ嬢が抑えている向こう側、敵陣地の奥に一発、行進間射撃。
敵陣から魔術師に戦車を狙い撃ちされたらひとたまりもないので、これは対する牽制射撃だった。
履帯車両による一瞬のスラローム。
車体から砲弾へ伝わる遠心回転の慣性力まで含めて補正した一瞬、タイミングを合わせて弾頭を敵陣の一点に送り込む。
「装填手、次弾榴弾装填!」
「へいっ!?」
「車長、次弾の装填は焦らなくていい」
砲を撃たずとも装甲車両は質量兵器で、敵兵にとっては戦象が森の中を駆けてくるようなもの。
避けきれなかった敵兵を数名吹き飛ばしながら、たちまち視界のバリケードが大きくなり。
「さあ、エーリカ嬢で魔術戦阻止の抑えが効いているうちに、装甲車両で突撃かますぞ」




