幕間:非実在種族『ドワーフ』2
「鉱山の俺達にとっては、『ドワーフ』ってのは英雄なんすよ。
小英雄よく大敵を倒す。
言葉を覚える前から子守唄で聞かされる、お上につく魔力保持者や魔術師を魔力なしに筋力と斧だけで倒したってぇ、魔力がない平民鉱山労働者の希望なんすわ」
「はー、なるほど」
「だからお嬢に声かけられたとき、お嬢の下につけるのも嬉しかったですが、魔術師殴ったら殺せる車を作るから運転しろって言われたのも嬉しかったっすわ。
俺たちも憧れの戦士『ドワーフ』になれるぜって」
「一応言っておくが、イリス漁業連合は魔術師殺しなんて首級は評点にならないからな」
「それが俺たちには不思議で。こんなイカツい武器ふり回して、軍功を求めずってどういうことなんです?」
「いちおう、イリス漁業連合は軍隊じゃなくて商会だからだよ。
あるいは、ヒト型サイズのザコには目もくれんということかもしれんが。
ジャイアントキリングが大好きで兵器工廠としては困ったもんだ」
「そうなんですか」
「巨人兵器に吸血鬼と倒した実績があって、そもそも想定敵は巨大海獣を海から駆逐するんだろ」
「そうですね。言われてみれば」
「森から迷い出た魔獣を狩るのとはワケが違うんだぞ。日本知識より倫理観よりも、ヨナは思考がおかしい」
スイは平民出身者なので、地元の漁村より外の世界について、知識をえるどころか意識する機会すらなかった。
なので先入観というか前提知識がなく、どうしてもイリス漁業連合が基準になってしまっているところがある。
「特にこいつらがいた炭鉱の労働闘争ではな、向こうは軍属の魔術師で、こっちの労働組合は無能力者の集まりだ。
ふつう、魔術師には魔術師をぶつけるもので、歩兵を並べてもかないやしない。
坑道に誘い込んで山ごと潰すか、戦車で轢き殺すくらいしか魔術師は殺せないから、魔術師の首をとったら末代までの英雄だ」
「俺の兄貴がクマ車3台で魔術師と相打ちになりやしてね。
組合の英雄だってんで、戦後も周りがいろいろ俺たちを優遇してくれやした。
クマ車乗りになって、いま戦車の乗員として、お嬢に付けていただいているのもその縁でして。
体躯が大きくて『ドワーフ』やれない俺も、カネと手間のかかる自動車学校に通わせてもらって、クマ車乗りの荷運び人になれて。
いまじゃ、お嬢について戦車とかいう新兵器の車長ですからね」
「あーわかります。私もいつのまにか気づいたら提督になってました」
「それは大いに違うんじゃないか?」
鉱山は、経済的に十分な栄養をとれない肉体労働環境で、かつ坑道に潜るために背の低い者が生き残る傾向が強かった。
炭鉱に潜れない体質のものが、工廠転換や逃げ延びて別に『山伏』『だいだら』として呼ばれるようにもなったのだが。
下級階層である炭鉱労働者の身体的特徴を指して、見下しを含めたレッテルを起源とする。
『ドワーフ』は実在しない架空の種族である。




