VS騎兵隊11 / 試作防空兵器『イリスヨナの碇』1
各艦、艦長席の後ろの頭上にはダクトホールが空けられている。
いまは合板で封されており、将来的に頭上の無線通信アンテナ類とのダイレクトインラインに計算機の排熱を兼ねる。
駆逐艦『雷』だけそこが簡易ハッチになっており、詰めている観測科員が落としたハシゴを登れば発令所の天井上に出ることができた。
あたしが登るためだけに改造された箇所。
求めるまでもなくプロトコルどおりに、観測科員が状況説明をはじめる。
「環境は温度26度の風向き170度1.8m/s、合成風速は艦首15度1.1m/s、ほぼ安定です」
「敵は槍1門、魔弓2門、どちらも魔力保持者が使う大物武具です。風が弱いので弾道も安定しています。まずいですよ」
「問題ないわ。むしろ都合がいいわね」
乱数のような環境変動に予定を乱されてはたまらないし、下手の軌道ほど読みづらい。
イヤホンの固定を確認、艦長席から持ち出したバッグから腰釣りしていた2本と別に、追加のスピア2本を取り出す。
「はじめるから安全距離をとって。報告はここまでとても良かったから、以降もとどこおりなく」
足元にあらかじめ彫込み塗装された安全ラインの向こうに退避して、あたしひとりが発令所上の中央に立つ。
指ではさみ持つ4本の太短刀は、重量打撃を主眼として刃は潰されている。
サイズは手のひら程度、大斧の石突をもとに空力を考慮した三角の金属片。
誰も見たことのない武具なのに、どこか見慣れた印象があり、見るものにいくつかの類似を想起させる。
鈍い三角をした暗器の大型模型。
引き抜けたサメの牙。
巨大生物の背鰭の一枚。
ネックレスの吊り下げ先端装飾。
そして、この世界にない大型艦船が持つ係留用のアンカーをヒトサイズに縮小したもの。
碇を結ぶのは鎖ではなく、魔術儀式用の赤い魔力導通リボン紙。
身体に当たればただではすまない重量のそれを、1本ずつ頭上に投げ上げていく。
カードの束のように折りたたまれたリボンが、碇とともに舞い上がる。
そして墜ちてこない。
頭上で連続する、ぱっぱっ、という魔力による小気味よい破裂音。




