VS騎兵隊5 / 岸辺に降り注ぐ新世代艦砲射撃2
第2射以降は、駆逐艦『雷』から始まり、射撃間隔をずらして行う。
択捉型海防艦は単装砲2塔で2基2門。
これは原典である大日本帝国海軍海防艦『択捉』の3基3門から後部甲板の1基を漁業甲板のために取り除いたため。
雷型駆逐艦は副砲が2連装砲で2基4門。
特徴である主砲が艦首甲板を貫いており、連装副砲は段差を用意して1基を上段に置くことで、軸線に向けて干渉しない『背負い式配置』を採用。
全艦で定時のローテーションを組み、10秒毎に2発ずつ、
『雷』『雷』『択捉』『佐渡』『隠岐』(休憩)
の順に60秒周期で射撃する。
60秒といえばおおむね通常艦砲による連射速度だ。
我らが艦隊は艦砲射撃プロトコルの未熟と練度の低さから来る遅れがあるが、事前に策定した照準による作業省略で間に合わせる。
装薬装填手と砲弾装填手、揚弾担当者はしばらく休みなしだが。
『雷』の1基は敵集団の先頭を照準する。
優先して高精度の砲を割り当てられた『雷』で、最も砲に詳しい設計者であり自身も砲術に秀でている最先任が照準を指揮している。
結果、雷の精密な対地砲撃が、距離をとって再突撃しようとしていた騎兵の集団を吹き飛ばした。
『まあ、魔術武装した騎兵は殺しきれないんだが』
最先任はそう言うが、地に伏したままの馬と兵も多く、立ち上がってもボロボロで、次々と白兵戦闘で討ち取られていく。
「12cm榴弾でこの威力なら十分な脅威だわ」
魔術砲弾は大きいほど威力がある。
12cmというのはあまりに小サイズあるため威力が低く、既存の技術で用意したとして魔力保持者には効果が薄い。
魔術防御できる軽騎兵たちは、12cmではたとえ直撃しても無傷でその場に立っていただろう。
通常兵ならば倒せるが剣で切ったほうが早くて安く済む。
少サイズ砲というのは銃と同じで、魔力のある戦場では有効性がないため生産されていなかった。
だが、イリス漁業連合が用意した艦砲弾は新方式で威力がこれまでと違う。
それに、支援射撃はこれで十分だ。
「あー、暴れてる暴れてる」
エーリカ嬢が戦線の中央へ、車両先頭から躍して飛び出す。
武器は槍。
敵軍がわっと割れて、ヒトの群れの中にたちまちエーリカ嬢だけの空間が発生する。
持つ槍はたぶん神話持ちの魔術武装なのだろう。
戦場で黄金にきらめき確かに雰囲気があるのだが、持ち主の雑味混じりでくすんだ金髪のほうが迫力があり、粗野な暴力を感じさせる美しさでヒトの視線を否応なく惹きつける。
なるほどヨナが執着するわけだ、と納得させられてしまった。
「引き寄せられて弾を当てないようにしないとだわ」
『エーリカ嬢なら当てても弾くだろ。ヨナが後で怒られるかもしれないが』
ついつい軽口が出て、最先任が答える。
とはいえ、魔力保持者が艦砲を弾き返せるのは本当だ。
もちろんそれを見越して、作戦には織り込んであるのだが。
以降の砲はすべて、敵の後尾をねらう。
砲精度と練度からくる味方への誤射を避けつつ、敵の退路を断つ。
今回の場合は相手は動かないし、マトに当てる命中精度もなかった。
イリス漁業連合と艦隊自体が出来たばかりの急造品なのだから、砲兵は訓練中に事故を起こさないだけでも、ハナマルあげられるくらい出来過ぎに上出来といえる。
砲自体はどうかといえば、遠征に間に合わせのために試作品までせおって出てきたため、命中精度はガタガタの代物が半数を超える。
砲雷科の砲兵の練度は高くないし、砲の精度も悪い。
というか主砲はCIWSではないし、最高の条件でもヒトなんて小さなマトに当たるわけがない。
ましてや敵の騎兵は優秀な魔力保持者であり、12cm口径の威力では艦砲弾を弾かれる。
『こちら最先任から各艦へ。もうすぐローテが2周終わる。良い装弾速度と命中精度だ。作戦どおり、次から榴弾に徹甲弾を混ぜていくぞ』
だから今回は、弾が当たらないことを前提に『弾を当てる必要のない』作戦を立てた。




