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予定よりひとつ早く

「スイ艦長、挨拶はひさしく。今は提督だったか」

「ああはい。提督、させていただいています」


身元確認やら聴取やらで面会までには時間がかかるということだったので、先に予定通り輸送物資の引き渡しと商品アピールを済ませたのだが。


「択捉艦長もひきつづき兼任していますので、どちらでも呼んでももらっても大丈夫です」

「あなたの名前と武功はわたしたちの国まで届いていた」

「そんな武功などと。お褒めに預かり光栄です」


スイは称賛の言葉に対して事前の練習通りに答える。


「まあその我が祖国は大国ストライアに敗けて、いまはもう無いのだが」

「あ、それ知ってます。ブラックジョークってやつですよね。

うわ、本当に反応に困る。どうしよう」


あっさり演技が剥がれた。


頼りない顔でこちらを見てくるスイは熱烈に再教育するとして。

まだ指揮下としての礼はとらないが、無礼ではない程度の態度を難なくとる人物を見て、あたしは納得していた。


確かに身元の確認は面倒だろう。

まあ慣習はともかく、実態は逃亡兵みたいなものなのだろうし。


使い古されても丁寧にメンテナンスされている様子がうかがえる、軽装歩兵のような格好。

騎兵装甲を着込むための金具や円環、あちこちに付いたマウントポイントがアクセントか。


「フーカ氏も久しぶりだ。遅くなったが、艦長就任おめでとう」

「ありがとう」


元軍団家長のレヴァ女史。

といっても同い年くらい。


どうして彼女かここにいるのかはわからないが。

偶然ということはない。


「よくここがわかったわね」

「事前に聞かされていた予定通りなら、艦隊はここに寄港しているはずだからな」


本当なら隠すべきなのだが、迎えに行くと伝えているので情報を統合すれば日程まで大筋がバレてしまう。

どうせ陸戦隊として持つということは急所を預ける相手なのだし、疑っても仕方ないというか裏切るなら早めにしてくれという、ヨナのいつもの思い切りの良さだ。


とはいえ情報漏洩がおこれば責任問題を含めて巻き込まれるエーリカ嬢は怒っていいところなのだが、こちらもこちらで鷹揚としている。


「席はあるかな」

「はしけで良ければ」


荷物をちょうど降ろしたところだから空いている。

というか、最初からそこに乗せる計画だ。


行きで持ってきた軍用物資のコンテナを満載で載せてきたはしけを、空っぽにしたまま帰るのはもったいない。

海浜辺境で手に入りにくい交易品を手に入れて、ついでに欲しかった陸兵もお持ち帰り、というプラン。


「全員いるの?」

「いや、私だけだ。君たちがいることを確認するために早足の馬で先行した」


戦況が悪く危険な状況だから、橋が落とされて面倒なコトになってるんじゃなかったか。

なのに単騎がけとは。

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