小さな集落跡
「道中ご無事でなによりだわ」
エーリカ様が出迎える。
こちらからは代表者としてスイが挨拶に出る。
とはいえエーリカ様はエスコートであって、運送貨物の受け渡しは現地責任者とのやりとりになる。
ロイヤルに助けられながら軍との手続きをすすめていく。
あたしは周囲をみまわす。
4番艦『隠岐』からの保安要員とともに、艦から降りて上陸班の安全を確保する役割をしている。
岸から船着き場が飛び出しているだけの小さな港湾だった。
たぶん古い遺跡をそのまま利用しているのだろう。
最近まで現地住民が使っていたらしく、漁に使われる小さなボートがいくつか陸に放置されている。
村らしきものが残っているが、すぐ奥に切り立った丘があって大河に沿うように細長く奥行きがない。
丘を背にしている地形というより、何本もある渓谷のうちのひとつが集落のあった場所、ということなのだろう。
「このあたりの住民は?」
「もうずっと前に避難したそうよ」
受け渡し手続きを横目に、エーリカ様から最新の現地情報を引き出す。
以前から戦況は押されているときいていたが、どうやら今も継続中らしい。
「あなたたち、本当にその格好で来たのね」
「ドレスコードがあるとはきいていないわ。これが私たちの制服だもの」
安全確保があたしの仕事だ。
「そう。私は好きよ」
「ありがとう」
元より若い少女の比率が高い私たちで、健康的とはいえ露出度の高い制服だ。
治安の不安定な戦場でも、大して違いはないとすらいえる。
それに、エーリカ様もどうこう言える格好ではない。
腕を動かすのに布さえ邪魔といわんばかりに脇の開いたジャケットに、合わせた健脚が眩しいショートパンツも動くには良いのだろう。
戦闘中はさすがにこの格好ではなく、着込んだり当て物を身につけたりする、あるいは甲冑を着込むのだろうが。
護衛がついている貴人とはいえ、早熟の容姿をもった美少女が戦場でしていて良い格好ではない。
これではお互い、周囲には正気と思われていないのではないか。
「煩わしいことなどなかったかしら」
「対処できない問題はなにもなかったわ。交通妨害も野盗の襲撃もなし」
ヒトが活動していないから水上は平和そのものだ。
「気になることとしては、道中の長い道行きより、近づいてから海獣が騒がしくなったことね。
なにかあった? まさか古代戦艦が進出してきているんじゃないでしょうね」
「古代戦艦は来ないわ」
エーリカ様は言う。
「これはあなたたちにとって良い知らせね。
それでどうして古代戦艦が来ないかというと、私としては困ったことなのだけれど、上流の横断橋が破壊されたのよ」




