かしまし幹部候補生たち1
「いいかげんなことよく書いたものだ、とまでは言わないからいいんじゃないかしら」
通常営業の時間がおわり、日も落ちた休憩時間。
駆逐艦『雷』の発令所下にある士官会議室に、あたしとスイ、ロイヤルとアルゴにコッツウォルズで集まっている。
親睦を深めるためにお茶でも、せっかくだから勉強会でもするかという休憩中。
いま雑談のタネになっているのが、イリス漁業連合の社内報だ。
ロイヤルが連載のディフェンスレポートの記述に憤慨している。
「掌砲出身としては、射程が短いとされているのが気になりますわね」
「ロイヤル姉ぇ、掌砲長やってた期間は3ヶ月もないぬ」
「思い入れられるくらいやったのならいいことだわ」
確かに、駆逐艦『雷』の主砲は上下角をほぼ固定されているが曲射ができる。
海獣駆除時に俯角をとったのと同じに、仰角も『雷』ごと艦首を持ち上げればいいのだから。
最大戦速で照準もいいかげんになるし、姿勢を維持できないので一瞬だけ。
それでもせいぜい15度程度だが。
「読者欄に反論を投稿するといいのではないでしょうか」
「いいえ。ことは艦隊のプライドに関わる問題です。
こういった間違いは編集に抗議をして、きちんと訂正を掲載させなければなりませんわ」
気の抜けているスイの意見に対して、ロイヤルはきっぱりと言い切った。
「へえ、ロイヤル、あんたありがちな貴人みたいな意見も言えるのね」
「わたくしを何だと思っていますの!?」
口調とか貴人っぽい振る舞いをするくせに、実家を嫌っているからか、権力をふりかざす系のまっとうな貴人みたいな言い方をあまりしない。
むしろそれが正しいと思えば上位者のあたしやスイにもきちんと意見してくる。
民主主義社会での暮らしが前提となりすぎていて貴族主義が肌に合わないヨナの態度が、イリス漁業連合には実力主義として強く反映されている。
その組織風土を維持するためにロイヤルは欠かせない人物だ。
そういった空気を作り、また隔たりなく接してくるヨナのことを、ロイヤルは態度には出さないが裏で崇拝しているようでもある。
「まあ勘違いされてこまることもあるけれどね。この場合は別にこのままでいいのよ」
嘘をつかずに嘘をつく卑怯な言い方であるとは思うが、『曲射できる砲の設置方法でない』という言い方自体も事実だし。
「軍事だとね、兵器の性能って、最大射程とかは隠すものなのだそうよ」
限界を知られていると戦闘の際に踏み込まれるし、隠しておけば相手を迷わせることができるからだ。
ロイヤルもアルゴも、良い家の出なだけで軍事の教育を受けたことはないのでそういう基礎が抜けている。
市民出身のスイは言うまでもない。




