VSヒト級エビ海獣2 / 魔法少女withパンツァーファウストのようなもの
ところでヨナは、艦船が好きだがミリタリィ知識にはまるで興味がない。
艦船となにも関係ないパンツァーファウストを覚えていたのが、ただ『そのヘンテコな見た目が印象に残ったから』というだけだったりする。
ヨナがいた世界の武器『パンツァーファウスト』について、ヨナから聴いたイリス漁業連合技術部は頭をひねった。
破片をまきちらす従来の爆発では、魔法なしで『タンク』の装甲に穴を開けることはできない。
たぶん何らかの工夫があるのだ、という推測をもとに『ヨナに対する好意的な尋問』が行われた。
もちろん拷問とかではない。
トーエとフーカによる、アメとムチあるいは良い警官悪い警官メソッドである。
メソッドの効果はともかく、トーエはデザイン周りの知識把握の際に、ヨナの忘れかけになっている無意識的な記憶を聞き出すことに慣れていた。
成果として『成型炸薬弾』という概念というか『語彙』を引きずり出すことに成功。
別の回の聞き取りから得られた戦車砲の複数の弾種という情報と組み合わせることで、
『爆発の方向を制御することで装甲を貫通する、炸薬の特異な配置方法がある』
という結論に至った。
ともかく、現場では効果があるのが絶対正義で仕組みはどうでもいい。
「続いていきます、パンツァーファウスト!」
注意喚起の掛け声とともに、続けて2発目が使用される。
「馬鹿っ、甲板が壊れたでしょうがっ」
「狙おうにもこれが限界だっ」
外れた1発が甲板に穴をあけた。
尾部にとりのこされた乗員たちに当ててしまわないよう、艦の横方向からねらって撃つのも大変なのだ。
択捉の漁業甲板に配備されたパンツァーファウストは、先行試作の3本で、残りは1本。
対するエビ海獣はのこり2体。
パンツァーファウストは生産性の高い比較的に単純な装備だが、コピー元が事故率の高い武器として知られている。
そのため設計製造に細心の注意を払わなければならなかったため、まだ数が少ない。
最初の1体はクリティカルヒットで撃破に成功したが、すでに1発が外れて、さいごの1発がもういちど一撃必殺になるとはかぎらない。
漁業長が闘志を燃やしながら、再び前に出る。
「やるしかねえ。せめて増援か、最後尾に取り残されたあいつら助けて射線がとれるまではな」
たしかに状況は悪いが、ここで引けば取り残された作業員たちがエビ海獣に突き回されてずたずたに殺されてしまう。
「なに、殴り続けりゃエビ共だって死ぬ。これまでだって囲んで殴って対処してきたんだ」
「それは相手が1体だったからで」
今は狭い甲板上にエビが2体もいて、ぐるりと全周を囲って戦うというわけにはいかない。
「あら、ならあたしが対処するのは1体だけでいいの?」
洋上から声がした。
張り上げなくても聞こえる声のした方向には、接近してきていた駆逐艦『雷』。
その艦長であるフーカが、択捉へジャンプしてくるところだった。




