ヨナの電力は無限です / 古代戦艦イリスヨナは電池ですか?
「1番から25番までの電源端子の接続を確認」
「送電ケーブル敷設問題なし!」
「送電ハッチ周辺、安全確認よし!」
古代戦艦イリスヨナの後部ハッチのひとつが開放されて、そこにケーブル群が突き立てられている。
少し離れた陸の上で、掌砲長がいかつい部下たちに囲まれていて、彼らから報告を受けて、指示を出す。
離れた各所から、点滅信号と号令、伝令が行き交い研究高炉エリアがざわめく。
「お嬢、準備できやした。いつでもいけます」
「わかった。はじめよう」
ちょい、と手を上げて、私の注意を自分へと寄せる掌砲長。
「ヨナ! はじめてくれ!」
「はーいはい。電源投入、『ようそろ』っと」
古代戦艦イリスヨナの指向性スピーカ(艦橋艤装ではなく船体表面)からの『ようそろ』の掛け声と同期して、送電が始まった。
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送電線に高圧電流が流れて、コイル泣きのような高音が発する。
変圧器は送電経路の脇に大量に設置されているが、25番からの分岐線のみにつながっている。
ほかは接続先ごとに適切な設定で直接電力供給することで、高価かつ扱いがむずかしい超高圧変電施設をかなり省いていた。
「第2から第4高炉まで、温度上昇中。再稼働問題ありやせん」
高炉とは鋼鉄の溶けた状態の鉄を扱う窯。
いちど停止してしまうと、溶かした鋼鉄が固まってしまう。
加熱にかかる時間と燃料代を考えると、再稼働させるのは大変だ。
そのためふつうの重工業の工場は、燃料を食い続けて止められない高炉をせめて有効活用するため、夜間休日をふくむ生産ローテーションを回している。
「なにしろ無尽蔵のエネルギー源だからな。それだけでも、重工商売としては夢のような条件だ」
しかし古代戦艦イリスヨナからの電力であれば、とめどなく供給することができる。
熱量も、施設類が耐えられる限界はあるものの、すぐに炉を溶かせる量をなんなく使用可能。
この施設の場合、第1高炉だけが某所から取得したバッテリィで常時稼働している。
「おかげで鋳造窯の加熱はし放題だからな。条件が許すかぎり、失敗作も溶かして再試行できる」
とはいえ、同じ成分なのだから溶かして再利用、というのは簡略すぎる考え方だという。
素材投入順や冷却方法によって鉄の結合が変化するし、再融解のときには炭素が抜け、工具や炉からの不純物が混じる。
さらに複数の素材を組み合わせた複合材になっていると、ただ溶かすだけではすべてが混じって使い物にならなくなってしまう。
と、掌砲長ではなくフーカが説明してくれた。
「そういうのはヨナにはわからんだろ。任せておけ」
「それもそうね。作戦部としては、数がそろって性能に問題がなければ、製造方法について口出しする理由もないし」
実務者どうしで納得できた話ならそれでいい。
「素材の品質劣化は試行回数と肉厚でカバーする」
イリス漁業連合の艦には積載量に余裕があるので、砲塔が重くなるのはそれほど問題にならない。
「結果、歩留まりの数字からは信じられないくらい、とんでもなく安価な砲になった。
なにしろ燃料代がタダなんだからな」