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VS巨大エイ3 / 海獣駆逐艦、艦首『主砲』巨大単装砲

駆逐艦『雷』の左を抜けて、イリスヨナがすれ違う。


すぐに巨大エイの群れがやってくる。

お互い全速であれば、群れと艦隊の接触はほんの数秒。


勝負はそのときに決まる。


「海防艦群、爆雷投下開始しました」


前方3隻の海防艦が、陣形中央へ向けて爆雷を投下していく。

V字の陣形と合わせて、群れのリーダを『雷』の真正面に誘導する役割。


あたしは事前に予定通りのタイミングで、一言だけ指示を出す。


「始めなさい」


副長が答え、操舵長が艦を『射撃深度』へ調整する。


「攻撃開始! 艦内、前方への傾斜に注意!」

「ベント開け、前部タンク群を注水開始! 艦長、潜舵ロック解除するぬ」

「許可します」


潜舵は、艦首を上下に向けるための舵で、ふつうは潜水艦にしか搭載されない。


みるみる艦が前方へ傾斜し、艦首が下がっていく。

艦首が水面すれすれを割りながら水しぶきを上げ、ほとんど潜水艦の潜航直前の体制へ。


「戦速から変更、スクリュは停止するぬ」


ぎりぎりまで姿勢変更しなかったのは、こうすると艦尾が浮き上がってスクリュ推進がきかなくなるからだ。

攻撃までのわずかな時間、慣性のみで速度を保つ。


敵が側面を抜けていき、味方が撒いた爆雷が行き先で炸裂する現場。

操舵長であるアルゴの精密な操艦がなければ、姿勢を維持することも難しい。


そして姿勢を崩せば、照準が狂う。


『雷』の掌砲長が報告。


「『主砲』、薬室温度問題なし、水密弁開放、ガイドキャビテーション・システム正常。発射タイミングを艦長に移譲。いつでも撃てます!」

「了解。アルゴ、艦の姿勢そのまま。各員、射撃に備えよ」


艦長が照準射撃などというのは普通であれば馬鹿の設計だが。

海獣駆逐艦が『主砲』で目標を射撃する場合、艦長席から艦長がタイミングをはかって直接射撃した方が良い。


なぜなら主砲の『狙い』はタイミングにしかないからだ。


大日本帝国海軍の特型駆逐艦3型には、艦首甲板に12.7センチ2連装砲があり、25ミリ機銃2連装が艦首前下についている。

だがイリス漁業連合の海獣駆逐艦『雷』艦首には本来あるべきそれらがない。


かわりに巨大な溝が、艦橋下部を貫いて後ろまで続いている。

そこに半ば埋まるように横たえられているものは、巨大な1本の土管に見える。


口径だけなら大戦艦級に匹敵する、海獣駆逐艦の『主砲』こそが、30口径単装砲。


照準制御は左右5度のみのうえに遅すぎて実用性皆無。

戦闘中の再装填すら不能。

人類の技術の限界、超大型の海獣『など』に有効打を与えうる威力のみを得るだけで精一杯。

照準は操艦と戦術で、敵に艦首を向けるしかない。


だが、当たれば効く。

はず。


『雷』発令所の中央にある艦長席と、眼の前にある中央窓ガラスどまんなかに、赤線で書かれた照準器。

そこだけエッチングによる手書きという雑さだが、目標は照準器で狙うまでもなかった。


海面を進むひときわ巨大な影。

『雷』を正面からまっぷたつにしようと海面に突き立つ、巨大エイ海獣の尾トゲ。


艦長席手すりの『射撃スイッチ』の安全装置を外し、引き金に手をかける。


主砲発射時には、操艦指揮にとって最悪なことに、最低限の要員を除き、発令所要員までもが耳栓や手で耳を塞ぐことになっている。


だがフーカは指示を出す。


「撃て」


爆音と衝撃と共に、眼前の影に巨大な血柱が吹き上がった。

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本作に登場する架空艦『古代戦艦イリスヨナ』を立体化! 筆者自身により手ずからデザインされた船体モデルを、デイジィ・ベルより『古代戦艦イリスヨナ』設定検証用模型として発売中です。
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