お貴族巫女姫さまのおたしなみ2 / Self-HoneyTrap CLEARING for you
「ヨナがしようとしてること、どれくらい理解してるのかしら」
「理解?」
古代戦艦イリスヨナの巫女、あたしの大主でもある童女のイリスと部屋にふたりきり。
廊下に間違いなくある聞き耳はどうでもよい。
「何が起こるかはわかってる?」
「大陸の有力勢力である吸血鬼族と敵対し、政敵と商敵から妨害と暗闘をうけ、人造艦船の艦隊で古代戦艦と海戦し勝利する」
既定路線についての合意は問題なかった。
「たくさんヒトが死ぬ。巫女をたくさん殺すことになる。わかってる? 問題ない? 自覚と覚悟はあるのかしら」
「わかっています。ヒトを殺したことならあります。私のヨナが、古代戦艦を沈めていますから」
「理解しているのならなによりだわ」
「ヨナに望みを叶えることを許したのは私です。ヨナがする行いの責任はすべて、私にあります」
来たるべき艦隊決戦。
その時に象徴たるイリスが潰れたら最悪だ。
目的意識も自覚もない、ただの童女では神輿に担いでいるこちらが困る。
大艦隊を率いる。
古代戦艦を殲滅する。
敵も味方もたくさん死ぬ。
それでも叶えたい願望があり、自分も世界もすべてを賭ける。
「あなたは、私と同じね」
そしてそれは、ヒトの上に立つ者に必要な資質でもある。
「そ。わかったわ。あなたの方は問題なさそうね」
ではもう片方を片付けよう。
「ねえイリス。あなた、そんなに自分の船のことが好きに思えるの?
自分を呪うものへの復讐ではなく」
首をかしげるイリス。
「はい」
「ヨナのこと、好き?」
「好きです」
言葉で確かめるまでもないことを、簡単な確認だけして。
「あなたの側付きの教育係はメイド長だったかしら? 話があるのだけれど」