古代戦艦イリスヨナの降伏(だと本人は言っている)
甲板に出て、ちょっと角度のついた古代戦艦イリスヨナの船首へと登る。
背丈の倍ほどもある旗棒を背負っての移動。
横腹を突かれた敵艦は横へ45度に傾いている。
ちょうど船首の先に甲板があり、ひしゃげた外装に手をかければ、歩いて登れなくもない。
重さはともかくバランスがとりずらくて仕方ない。
あげく、敵艦のへりで足を滑らせて、甲板を転げて艦橋まで落下。
最近、落ちてばかりの気がする。
ガレオン船の艦橋は、船体後部に半ば一体化して背が低い。
半階分を登って、外扉をひとつ開ければ、そこが発令所に相当する区画。
中央の艦長席に少女らしき人物が座っていた。
他の要員は、下に荷物と一緒に溜まっている。
45度はじゅうぶん登れる角度だが、古代戦艦のがらんとした部屋では掴まるものもほとんどない。
部屋の隅に寄った棚や机から這い出たあと、彼らは登る努力を半ば放棄したものらしい。
さて、また転んで下の要員たちに混ざるのはどうにも間抜けで状況も悪い。
どうするかと考えながら、なんとなく半歩ほど踏み出したところで。
イリス漁業連合が手配したブーツが、かこん、と鳴って足裏が床に吸い付いた。
不思議に思っていると、後ろから声。
「まったく、こんな不整地をすたすたと歩くなよ」
「本当についてきたの?」
「他に交渉事ができそうな奴がいないからな」
掌砲長だった。
はいはいを覚えたての赤ちゃん、というほどではないがおぼつかない様子で両手両足をついて進む。
「これでも専門は鉱山資源で、荒れた道には慣れてるつもりなんだぞ」
「そうなの?」
「平地を歩くみたいに進みやがって」
考えてみれば、ここは古代戦艦の上。
仕組みはわからないが、磁石のように足裏を吸着することができるということなのだろう。
古代戦艦イリスヨナの発令所に立っていて、衝撃で吹き飛ばないのを不思議に思っていたけれど。
無意識にやっていたらしい。
「おーい、聞こえるか。こちらは辺境国の古代戦艦イリスヨナだ。講和をしに来た」
「正確には、少し違うのだけれど」
そう言って私は、ここまで掲げてきた旗棒をあらためて見せつけ、振るう。
日本でも同じ意味だったような気がするのだが、この大陸でも白旗は有効だそうだ。
聞こえているかどうかわからないので、敵艦内に踏み込み、大声で宣言する。
「古代戦艦イリスヨナは、あなたたちに降伏するわ!」