択捉艦長の帰宅 / VS側面砲列<ガレオン>の古代戦艦5
「艦長、舵をお返しいたしますわ」
「ありがとうございます。受領しました」
席を譲るロイヤル。
先ほどまでフーカに向けて好戦的にやっていたのとうってかわって、フワリとした口調でスイに尋ねる。
「家出はもう宜しいのですか?」
すると周囲の各員から元艦長代理に対して、変なため息とともにじっとりした目線が集まる。
「ふつうそれ訊くかぬぅ、ロイヤル義姉」
「えっ、えっ?」
「風情と配慮と人情がないぬー」
義妹にまで呆れで対応されて、なんだこの空気となるロイヤル。
フーカだけがちょっと面白そう。
ともかくイリスヨナに報告ということで、牽引策の有線電話の回線をひらく。
『こちらスイ、副長フーカと共に択捉に帰還しました』
『そ、お疲れ様。こちらの状況は把握してると思うから、そちらの状況を報告おねがい』
事務的な会話をやってから、ヨナが心なし優しい口調で言う。
『ところでスイ、家出はもういいの?』
「さすがヨナさん、人情のカタチが欠けてるぬー」
義妹の小さな声に向けて、ロイヤルが複数の感情がこもったジットリとした視線。
『家を出てふたりでフラフラ歩き回って、満足した?』
「えっと、ごめんなさい?」
「なんで疑問系ぬ」
ヨナは言葉はともかく調子は、職場放棄を責めているわけではない様子。
スイの返事も、申し訳なく思っていないわけではないだろう。
有線電話の向こうから、ヨナ。
『おかえりなさい』
あ、と気づいた発令所に、ぬるい空気が流れる。
要員のめいめいが、どころか艦内無線からも同じ言葉が続いて流れる。
「おかえりなさいませ、艦長」
「おかえり、スイ」
行動を共にして戻ってきたはずのフーカまでもが続く。
いっそ居心地悪そうに、スイは答えた。
「皆さん、ただいまです」




