地上掃討 / 択捉艦長の帰還 / VS側面砲列<ガレオン>の古代戦艦3
「発砲を確認。信号弾です」
発砲は遠く、ヒトの可聴域ギリギリより小さい音だが、副長には聴こえたようだ。
古代戦艦イリスヨナでも当然モニタしている。
『こっちも聞こえたぬ』
『択捉の上陸要員は全員武装して待機。アルゴ、耳いいのね』
『耳じゃなくてツノだぬ』
そんな敏感な感覚器を初対面で触らせてもらっていたのか。
「陸のほうで動きがありますね」
どこに隠れていたんだという数の兵が、遺構のあちこちから湧いて出てきた。
信号弾の打ち上げ地点に殺到していく。
「まずいな。完全に包囲されてるぞ」
しかし構わず次発の信号弾が上がる。
いちおう信号弾の符丁はあるが、読まなくてもフーカの意図が理解できてしまった。
「陸で教会と連絡つけてもらうために、レインがいないのが痛いわね」
1隻沈めておいてなんだが、それと別に地上戦への介入は難しい政治判断だ。
とはいえ、スイとフーカをここで失う選択肢はない。
「副長、榴弾とクラスタの弾頭を使います。大型VSL発射管の3番から8番を発射準備」
「了解しました」
戦闘状況についても正直不明で先が見えない。
本来なら決行に不安要素があるが、フーカが求めているなら上手くいくのだろう。
「イリス様、地上を掃討します。構いませんか?」
「ヨナのしたいように」
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「グラヴァス、来るぞ! 戻ってこい!」
物陰から空を見上げていたレヴァが指示を出し、背の高い竜人騎士を中心とした守備隊が一目散に後退してくる。
入り口を守るためとはいえ距離をとりすぎだが、弾着前には全員が豪の中に戻ってくる。
「閉めろ!」
巨大ハッチ風の扉板を閉めた上に、遺構から発掘してきた厚みのある装甲板を積み上げ、立てかける。
完全閉鎖された洞穴の中を、雷轟直下のような激しい衝撃音が襲う。
地下探索の間は各所の水源近くを宿営地として身ぎれいにしていたのだが、一瞬でその場の全員が砂だらけになった。
ひと通りの衝撃が収まった余韻の中でグラヴァスが、狭い遺構に高い背と長い尾を押し込んだ窮屈そうな体勢のまま吠える。
砂が飛ぶからやめてほしい。
「カゲンってものを知らないのかよ!」
「だから加減してるじゃない。遺構を平らげないように、小威力弾で身体強化のできない通常兵を掃討しただけ」
会話が成り立っていない、という心情をその場の全員が共有したところで、レヴァが頭を抱えた耐衝撃姿勢のままフーカを見据えていた。
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「古代戦艦の有用性はこの目で見て認識しているつもりだったが、まさかこれほとどは」
レヴァの言葉に、本当はまだまだこんなものではない、と思ったが面倒なので口にはしない。
警戒する先頭に続き、地上に出たスイとフーカを待っていたのは、煙の舞う爆撃跡だった。
遺構は原型をとどめているものの、あちこちカドが取れ、穴があいている。
衝撃に揉まれた無残な布袋があちこちに転がっている。
周囲を守る兵士を失って、生き残っているであろう魔力保持者も姿を表すことはなかった。
「フーカ、見つけたぞ、船からの信号弾だ」
河川付近から高速で立ち上る細い煙の航跡。
「対艦戦闘、状況が進行中ということは、まだ古代戦艦が残っているのね」
周囲を見渡して、次の行動を提案。
接岸し乗船できるかはともかく、イリスヨナに近づけば戦闘状況がわかる。
符号交信で状況を共有くらいはできるかもしれない。
「ともかくいったん合流を目指しましょう」




