よくわかる古代戦艦のひみつ / 古代戦艦の巫女と反動
あたしのボロボロの身体から、もう何度嗅いだかわからない、血と肉の匂い。
でも今は、かすかに他のものが混じっている。
目覚めた時、それがここにあればいいと思っていた。
意識が途切れる直前のそれから、いまがシームレスに繋がっている。
スイがそこにいた。
話すと、唇がもごもごとする感覚。
「血は抜いた?」
「なに言ってるんですか! 死にかけてるんですよ、じっとして黙っていてください」
「血を抜いて」
「フーカ、いいから黙って!」
「を、降ろしてもいいわよ」
あ、主語が抜けたかもしれない。
まあいいや。
寝る。
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次に目が覚めた時、地下空洞の闇の中、レヴァ隊のキャンプの中心に寝かされていた。
「フーカ、死ぬんじゃないかと思ってました」
スイは言いながら、時計を見せてくれる。
「まる1日寝ていたんですよ」
イリス漁業連合が貸与している視認性を重視したデザインの腕時計の針が見えない。
視界の回復にはもう少しかかりそうだ。
「というか、どうして生きてるんですか」
ひどい言葉だが、泣きながら言われると皮肉のひとつも返せない。
「それは私も同感だ」
「すまないが、軍医を降ろせたのは戦闘後5時間経ってからだった。
聞くところによると、貴君は腹を貫かれたそうではないか。
普通なら死んでいるところだ。
失礼ながら君は無特徴のヒトに見えるが、どこかの混血なのか?」
「あたしの経歴は秘密。ただ生まれつき丈夫なのよ」
というか、古代戦艦の巫女としての特性だ。
「そういうことなら先に言ってください」
「だってどこまで大丈夫か、確かめたことなんてないもの。試しに腹を切ってみるわけにもいかないでしょ」
「えぇ」
古代戦艦の巫女たちは総じて肉体の再生能力が高い。
古代には腕が生え直したという逸話もある。
現代ではそれほどでないものの、ケガや消耗からの回復は早い。
それでもなお、古代戦艦の操艦は20歳まで生きられないほど過酷な消耗を強いるわけだが。
意図的に暴発させれば吸血鬼を一撃で瀕死においやることさえできた。
殺し方も生き残る方法も、本当にできるのやら、やってみるまでわからない作戦だった。
「本当に上手く行ってよかったわ」
「フーカぁ!」