VS吸血鬼3 / 『古代戦艦ヴィットーレ』へようこそ / 死の艦長席
硬い接地面だったけれど、いちど大きく跳ねて、天井には触れず自由落下。
スイを両腕で抱きしめなおし、もういちど背中から受け身をとる。
頭蓋が砕けそう。
「フーカ、血、血が!」
無視。
どうせあらゆるところから出てる。
それより立たなければ。
スイ艦長ひとりでは、対吸血鬼ライフルを装備していたところで丸腰と同義だ。
「っだ」
まだ動ける。
左手は血塗れで伸び切ったソデの中に拳があるかどうかわからないが、右腕は感覚があるし、動く。
台座の上に降り立つもう1騎の吸血鬼。
「貴様ら、よくもヴラ」
次の一瞬で、残った魔力のほとんどすべて。
放出して飛び込む。
だから突き出す拳には魔力のカケラも含まれていないが。
敵吸血鬼の瞬間防御でグローブが裂け、裂けまくっていた皮膚がすべて剥がれ飛び、制服は二の腕まで焼尽。
が、拳は口の中。
あたしの血を飲んだ。
飲んだな、見たな。
他人に自分の一部が移ったこと、自分の心の中身を見られるということに、嫌悪のあまり気が遠くなる。
吸血鬼は血を飲むことで、能力と記憶を複写する。
その能力の程度は個々に異なるが、高いほど吸血鬼として高位となる。
意図しなければ眷属は作れないし、記憶を見せただけでは吸血鬼には小揺るぎの影響も与えられない。
そして吸血鬼が巫女の血を飲んだところで、古代戦艦の巫女としての役割は引き継げない。
吸血鬼が巫女の能力を奪って儀式をしようとしても、古代戦艦の制御に失敗するのだ。
ダイレクトエントリーパイプの底。
古代戦艦の墓所の第5層。
スイとあたしがバウンドし、吸血鬼が降り立った台座は、鉄の艦長椅子。
「オープントップの古代戦艦『ヴィットーレ』へようこそ」
古代戦艦『ヴィットーレ』を、起動。
瞬間、真っ暗な横穴だった発令所の床が発光。
各種装置に火が灯る。
吸血鬼は馬乗りになったあたしを振りほどこうとするが、いつもなら怪力を使わずとも簡単なそれさえ叶わない。
起動シーケンスが始まってしまえば、いかなる力をもってしても艦長席から離席することはできない。
脳髄に叩き込まれる古代戦艦『ヴィットーレ』の船体制御情報が溢れて脳の神経に焼き付いていく。
腹圧が上がって血を吐いた。
違う、目の前に座る吸血鬼に腹を貫かれた。
とても他人には見せられない顔で絶叫し、吸血鬼が血のゲロを吐く。
拳、突っ込んだままなんだけれど。
ぼたぼたと血がかかる。
焼ける鉄の匂いがする。