消えた戦士を探して、墓の奥へ
「イリスヨナの威光があっても五分五分に思っていたけれど。
囲ってる教団がめちゃめちゃになってるいまなら、墓所の最深部まで踏み込めるかもしれない」
とはいえ、話はそう上手くはいかない。
「問題は吸血鬼ね。屋内だと昼夜がなくなるから。
それにイリスヨナの迎えが来たとき、頭を押えられたら穴ぐらから脱出もままならないでしょうし。
吸血鬼や高位の魔術師さえ排除できれば、地上の一般兵はイリスヨナでぱっと薙ぎ払えるけれど」
「でもフーカ、イリスヨナは古代戦艦ですから地上戦は関係なくありません?」
「あたしもいるんだから、準備のない歩兵ならいいようにあしらえるわよ」
状況がよければ全滅もやれる。
「そういうわけで、3日ほどこの第3層で逃げ回り、古代戦艦の迎えがくればいっしょに撤退、来なければジリ貧前提で地下へ逃走、ということでどうかしら」
おおむね同意を得られそうな提案をぶつけてみる。
あとは、ここまでいっしょに逃げてきたけれど、やっぱりこちらを信用できないとか。
「フーカ、貴君は墓所の地下階層を道案内できるのか?」
「できるわよ」
ここまで道案内したこともあり、嘘のつきようもない。
「でもそちらは片道だわ。頭を吸血鬼の個体と信奉者部隊に押えられたら、脱出する方法がないもの」
最善ではないけれど、あたし自身はそちらの次善を選ばれても悪くはない。
「死んでもいいから進みたい、ということなら話は別だけれど。あたしはそっちでもいいわ」
スイがおずおずと手を上げながら。
「あのフーカ、わたしは困るのですが」
「貴君の意図が読めない。死ぬのが怖くないのか?」
「それより墓所の奥が見てみたいの」
レヴァは周囲の部下を見回す。
何も返さずレヴァの判断を待つ部下たちの顔を見てから、あたしに向き直る。
「そうだな、進もう」
(ふむ。)
こんなところにこんなタイミングの小部隊。
調査隊なのはおおむね間違いなかろうとカンが告げていたが。
「あなたたちにも進みたい理由があるってことかしら」
「父がここで消えた」
それは少し予想外だった。
「防衛戦失敗の責任をとるためという名目で、古い未完遂の調査命令を引っ張り出してきたのだ」
彼女の父は、没落しかけた軍人の家。
未帰還で有名な墓所深層の調査の命令だったが、はねのけることもできず。
部下だけを行かせるのが忍びなく、自ら部下を引きつれて赴き、そして誰も帰ってこなかったという。
「オレたちの主だ。めちゃくちゃ強かったんだぜ。
もう8年もまえのことだから生きてるとは思ってないし、ホネが拾えるとも思ってねえ。
ただシニザマくらいはわかればめっけもんだ」
それだけの明確な成果を期待できない目的のために、30人の訓練を受けた優秀な戦士が決死行についてくる。
なるほど親子で部下に慕われているのがわかる。
「それはあんたの望み? それとも部下たちの?」
にらみ返された。
「そうね。ごめんなさい」
失礼な質問だった。
「でも、そういうことなら、いいわね。かなりいいわ」
「フーカ?」
スイがあたしの顔を覗き込む。
「あんたたちにやる気があるってことなら、別の案、最善の策をとることができる」
「何をするつもりだ?」
「決まってるじゃない」
話すより先にあたしの意図に気づいたスイが目を見開く。
選んで使った強い言葉はアタリだったようで、竜人騎士の大女が手を叩いてにやりと笑った。
「あたしたちで、邪魔な吸血鬼どもをぶっ殺すのよ」




