エスケープフロムザ択捉
「どこ行くの?」
「あの、これは」
旅行ケースをひいてどこかへ行こうとするスイに、私はたたみかけて問う。
「どこに行くのかって訊いてるのよ。行き先は決めてあるの?」
「いえ」
それから1秒近く考えて。
「ちょっと待ってなさい」
スイに命じて、きびすを返す。
「待つって、え、フーカどこいくんですか!?」
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諸々済ませて戻ってくると、スイは旅行かばんを持ったまま、廊下できちんと行儀よく待っていた。
通行の邪魔ではある。
「わたしなぜ、30分もここで待たされていたのでしょうか」
「よく逃げなかったわね」
「だって逃げたらフーカ、絶対許さないですよね」
「追いかけていって捕まえて、火炙りにするつもりだったわ」
「ほらやっぱり!」
そのまま自室に飛び込み、最低限の荷物と着替えだけバックにつめて部屋を飛び出る。
スイの手をとり、そのまま早足で歩き出す。
「さ、行くわよ」
「え、え?」
「あんた家出するんでしょ」
「そうですけど」
「臨海の伯領地は辺境の田舎なんだから、ボサボサしてると深夜貨物の列車だって最終が出てしまうわよ」
「えっ、えっ? どうしてフーカがついてくるんですか」
「何言ってるのよ。ついてくんじゃないわよ。連れてくのよ」
「フーカこそ言っていることの意味がわからないのですが!? わたしの家出ですよね?
というか連れて行くってどこへ」
「墓所。古代戦艦の墓場よ」
手短に目的地を伝え、握ったままのスイの手をぐいぐいと引く。
「一度見てみたかったのよね」