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万能戦艦イリスヨナ / 愛しのイリス様のためなら古代戦艦だって総て滅ぼすことができる【百合】 / 愛しい我が巫女姫のために艦隊作るよ  作者: MNukazawa
人造艦船『択捉』初陣、ヒトの作りし船 / 婚約を破棄してもらった / VS狙撃砲艦
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龍宮神社の領分 / 戦死という名誉 / 彼女が望まぬ英雄譚

「リサの葬儀、竜宮で執り行っていただきたいのです」


択捉艦橋要員が見守る中、私を含むイリス漁業連合の基幹メンバを集めて、彼女はそう切り出した。


「わたしからも頼むぬ。リサの遺体を、イリス漁業連合で引き取って欲しいんだぬ」


リサは前回の戦闘で亡くなった乗員の少女で、ふたりは『姉妹制度』と称して彼女の世話役を押し付けられていた『姉役』だった。


今回の不意遭遇戦で、択捉の死者は3名。

ほかのふたりは工員出身で、イリス伯領地の近くに生家がある。


速達で死亡を知らせる手紙を出し、古代戦艦イリスヨナの冷蔵庫に入れたまま、イリス伯領地の母港まで回航する予定。


困惑する私に、レインが事情説明をしてくれる。


「リサさんのご遺体については、実家から引き取りの話がきています。

分家の出身ですが本家は帝都の近くにあって、そこが今日にもぜひに引き取りたいと」

「実家のご両親が引き取りたいというのなら何より優先、というわけではないの?」


上姉が割り込んで答える。


「だからこそですわ」

「択捉に乗っている海洋技術学園の生徒はみんな、多かれ少なかれ、家には帰りたくない奴のほうが多いはずだぬ」


返事の声はないが、場の空気の沈み方で、彼女の言葉が事実であるとわかる。


「スイ艦長は、リサから実家の話をきいていらしたかしら」

「いえ。艦上での暮らしかたとか、食べ物の話題とかはよく話しましたけど、ぜんぜん家のことは話さない子でしたから」

「たぶん、知られたくなかったのだと思いますわ。

リサは家から半ば追放のていで追い出されましてよ。

それも、本家が施した魔術儀式で、子供を産めない身体になったから、という理由で」


貴人家のような『名家の家系』において、子供が産めないとなれば嫁に出すのに『使えない』という理屈があるのは、私でもさすがに知っている。

気が遠くなるような人権感覚だが、現代日本の一般家庭ですら、多かれ少なかれそういう考えの者がいたりする。


「スイ艦長はリサの遺体をご覧になりましたわね。腕の古傷に気づきまして?」

「あれ、戦闘中に受けたケガではなかったんですか」


フーカが納得したように言う。


「3日も漬けておいて、腕の手術痕だけ膨らんでなかったのは、やっぱりそういうことなのね」

「フーカ副長はご存知ですのね。

とある高名な吸血種の肉体の一部を埋め込んだのだとか。

特に吸血種は肉体と魔力が著しく強いですから」

「魔力が高い物体を埋め込む手法は、方法と体質によっては確かに有効よ。

ただ、研究もされているけれどまだ実用には程遠いし、大抵は拒絶反応が出て上手く行かない」


フーカは、わざわざ前提から順をおって話す。

そういった一部貴人家の秘密を知らないであろうスイを含む多くの人員と、なにもしらない私のための説明だろう。


「下位の貴人家がそういう秘術のようなものを継承しているのは知っているわ。

古い血族は家毎にそういった秘伝を持っていることは多いし、実力差を埋めようと古く効果の疑わしい手段にすがりがちだとも」


しかし、なんというか。

ほとんど何もしてやれなかったと言っていたが、その割に末妹の方は、スイ艦長への尊敬とは別に、姉たちに心を開いていたのではないか。


でなければ少女が身体の傷の話など、他人にはしないだろう。


そしてもうひとつ。

実験動物扱いしたあげく、役立たないとわかったら小さな娘を追い出した実家の本家が、本人が死んだあとに、いまさら愛情に目覚めたというはずもない。


「リサは生まれ育った両親の分家ではなく、実家の墓に入れるそうですわ」


それですべての理由がわかった。


「スイ艦長を筆頭に、いまの択捉乗員はみな時の英雄。

なかでもリサは、勝利と引き換えに栄誉の戦死を遂げた悲劇の少女。

死んだあとに良い使い勝手ができたから、いちど捨てたリサがいまさら欲しいと。

いえ、本当にほしいのはついてくる名誉だけなのですわ」


死んだ者の栄誉。


「顔も見たことのない、リサを苦しめた根源である者たちと同じ墓に、リサを入れたくないのです」


死者の栄誉を利用したがる者の存在と、無邪気に戦中の死を尊ぶ世間の空気を認識して、吐き気がする。


「リサは信仰に特別篤い娘ではありませんでしたし、竜宮の美しさには感じるところがあったようですわ」


今回のことについて、手を差し伸べるのは簡単なのかもしれない。

しかし。


「ですから、リサをあそこで眠らせて」

「それは嫌っ」


それきり、言葉が途切れる。

私の動向に注目が集まる周囲の沈黙の中で、イリス様が私の顔を覗き込んでいた。


「ヨナ?」

「すみません。あまり良い気分ではなくて」

「うん」


イリス様はそれだけ答える。

択捉の乗員たちが見ていた。


本当はこの場でどう答えるべきか、わかっている。


「少し考えさせて頂戴」


でもそれしか言えない。


代わりに漏れたのは、嗚咽のような独り言。


「竜宮は、そういうつもりで作ったんじゃないのよ」


死者は死者。

死んだ人間を英雄にするつもりは、なかった。

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