婚約破棄(は昨日のパーティでもうやりました) / 婚約破棄の理由、めちゃくちゃ妥当
『これ、なんでわたしまで同席してるんでしょうか』
「パーティ前にヨナがイリスに、あんたから離れないようにって言ったからよ」
『えっ、それだけですか?』
「それだけよ」
いや私も驚きなのだけれど。
「あんた自分のイリスへ与える影響力、まったく把握してないわよね。
巫女としてじゃないわよ。そこんとこ、わかってんのあんた」
そう言われても。
私はただイリス様の船でしかないし。
「というかあんた、案外冷静ね。感情を隠して演技できるタイプじゃないのは知ってるけど、本当に大丈夫なの?」
「みんなが何をそんなに心配しているのかまったく理解できないんだけど」
「だって婚約者よ。婚前だから交渉はないにしても、いずれあんたのイリスを歯牙にかける予定だった男。
しかもパーティ会場で婚約破棄ってことは、イリスに大恥かかせた張本人じゃない」
「いや、イリス様は私のものじゃないし、事情も婚姻の仕組みも知らないし」
この世界で貴人同士の婚約について知識がなくて、どうこう意見をいえる立場にもない。
「私が怒るような婚約破棄のされかたをしたの?」
『いえ、完全に円満解消です。というか、これからも家どうし仲良くやっていくために仕方なく、計画的な婚約解消ですよ』
レインが答えてくれたが、余計にわからなくなった。
婚約を解消して仲良くって、そっちのほうが変な話に聞こえるが。
『ざっくり言えば、ヨナさまのせいですよ。
ほら、イリス伯領地家は、イリス漁業連合に全ベットしたわけじゃありませんか』
あらためて指摘されるまでもなく、たった数年で艦隊建造しつつ漁業産業確立という大博打。
成功率は察して知るべし。
金鉱山に投資するよりヤバい事業を、いきなり婚約者の実家が始めたら、普通は大慌てする。
「めちゃくちゃ妥当な婚約破棄じゃない」
『ヨナさまがそう言ってくれる確証がない状況で、こんな話できませんよ』
レインが緊張のとけた様子で息を吐く。
「そうは言うけれど、古代戦艦イリスヨナは一度も暴走したことなんてないわよね?」
『その最初の一回で帝都を瓦礫の山にはしたくなかったんです!』
今回はまったくの杞憂だけれど、慎重なのは良いことだ。
『それと、イリス様の婚約と婚約解消について、黙っていたのはすみませんでした』
「いやそれも別にいいのよ? だって政治案件でしょう、これ。
私が苦手で嫌だからって、押し付けるようにレインにお任せにしているのだし。
そのレインが報告するまでもないって判断したなら、それでいいのよ」
『報告するまでもないとかそういう意味では。いや、もういいです』
レインが頭を抱えて首をふる小さな風切り音が、無線に混じっていた。




