公爵令嬢エーリカ様の人脈 / 印刷と出版に組版、謝礼の手配
「ところでわたしがパーティに出るにあたって、フーカは?」
「もちろん択捉で艦内待機だけれど」
母港を出て作戦行動中の艦をあけるわけにはいかない、副長として艦長の留守を預かる、という理由をつけて、帝都やイベントには顔を出さないでいる。
大国アルセイアの中心である帝都には、王都以上に国際外交の関係者が多く行き交っている。
大国ストライア時代の古い知り合いと行き違う可能性すらあり、フーカの出自がふとしたことでバレてしまいかねない。
「マナーとかどうしましょう!? まだ自信ないんですが」
「イリス様にエスコートをお願いするわ」
「ヨナ、他の乗員も4人ほど見繕いなさい。艦長には介添えがいるべきだし、出席者が気軽に話かけられる家柄の乗員もいたほうがよいでしょう」
「そうします。ご配慮ありがとうございます」
出席者は全員貴人なので、いろいろな意味で平民のスイに声を掛けるのに抵抗のある者もいる。
無理に引き合わせるよりは、乗員から血筋をもつものをピックアップしておいたほうが互いにとって良い。
イリス漁業連合には叶えなければならない目的がある。
平民から乗員を雇用するのだって、あくまで手段。
社会構造をどうこう変革しようというつもりはないのだ。
良心が咎めないわけではないが、何ができるでもなし。
そのあたりをつついて、こちらに妨害や口出しをされたくはない。
「ヨナ、謝礼はこんなところで良いかしら」
「謝礼、ですか?」
「『パーティに出席する帝国の貴人と交流する機会』よ。
トーエが個人的に受け取れないなら、ヨナ、雇い主のあなたが責任をもって私からの礼を拝領しなさい」
「ああ、なるほど」
確かに、その理屈なら道理はとおる。
「それと、若年の少年少女が触れるメディア流通を紹介したうえで、必要な印刷出版まで含めて繋いだわ。
択捉の情報封鎖に対する対価、広報協力のほうもこれで十分かしら?」
ちなみに出港前の『択捉』で数をごまかす、存在を秘匿する云々は、前回の戦闘における古代戦艦の大量喪失と択捉の大活躍により、すべてご破産となっている。
「ええ、それはもう。ありがとうございます」
さすがエーリカ様だ。
正直なところ私には正確な価値はわからないが、大陸中にイリス漁業連合の存在を広める機会は、十分に価値のあるものだろう。
そのへん私より理解しているトーエが額に眉を寄せる。
「貰いすぎなところがありますね」
「百貨店の仕事を手伝ってもらったでしょう? 今後のことも含め、わたしのスタッフもいろいろ学ばせてもらうわ。それで十分よ」
どうやら百貨店からでない、エーリカ様のスタッフもこの場に含まれていたらしい。
「ヨナ、あなた商品の値付けは大丈夫なの?」
「といいますと」
「あなたこれから商売をするのでしょう。
値段は間違わずにつけなさい。
安ければいいというものでもないのだから。社会に迷惑をかけることになるし、面倒ごとを呼ぶわよ」
「ご忠告ありがとうございます。しかし、難しいですね」
最終的には掌砲長が手配したヒトたち、政商グランツの事務方が良いようにしてくれると思いたいが。
「不相応に高ければ敬遠されるし、不相応に安ければ安く見られるわ」
エーリカ様の言葉に、トーエが答える。
「値段で印象が変わる、ということは、値段もデザインに含まれますね」
(え、これもトーエの仕事になるの?)
職業選択の自由は尊重するとして、トーエに転職されたらどうしよう、と頭を抱えたくなった。