パーティのお誘い / 平民艦長スイの社交界デビュー / 前例バンザイ
結局、撮影だけでなく、表紙とページデザインにまで口出しすることになった。
撮影したものが即出版されるわけではない。
つまりトーエはこのあとしばらく、大陸全土を相手にしている百貨店の雑誌制作ルートに横から口出ししなければならないわけで。
こちらの立場のなさとか相手の大きさとか、とにかく苦労をかける。
ひと仕事おえたトーエは、抱きしめたチセを愛でて癒やされている最中。
ほんの数分前までは、逆の立場で幼いチセの胸で抱き撫でられることで癒やされていた。
しばらく待ってから、エーリカ様がねぎらいの言葉をかける。
「おつかれさま。ところで、百貨店からあなたたちへの謝礼なのだけれど」
「いえ結構ですよ。ヨナさんから任された広報のお仕事の一環ですから」
トーエが如才なく答える。
「ガード固いわね」
「そんなつもりはないのですが」
イリス漁業連合によるトーエの雇用は、私というかイリス家に仕えていることになっている。
他貴人家に仕えているヒトに対して道理を通さず報酬を払うことは、敵対的な引き抜き行為になってしまう、とのこと。
私は別に構わないのだけれど。
トーエほどのデザイナなら引く手あまたであろうし。
もちろんイリス漁業連合はすごく困るが、個人的にトーエの職業選択は自由意志であって欲しい。
「ヨナさんのそういうヒトを縛らないところ、わたしは好きですけど、言い方で冷たく受け取られますよ」
「ありがとう。気をつけるわ」
私の返事をきいて、トーエは満足気に微笑み、抱きしめたチセを撫でる手を再び動かしはじめた。
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「スイ艦長、今日はあなたもパーティに出なさい」
「わあ! ではパーティドレス」
「もちろん制服で」
「ですよね」
予想通りのオチはおいておくとして。
「エーリカ様、パーティに制服というのは、良いのですか?」
確かに学生服は、日常からちょっとしたパーティまで対応可能な万能服だけれど。
「だってその制服、ようは軍装でしょう。軍人が軍装で公の場に出るのは普通のことだわ」
「いえ、軍隊じゃないし軍装ではないです」
エーリカ様相手とはいえ、大事なことなので即応で返す。
「学生服です」
装甲板より硬い魔術防壁を固めておいて、学生服を主張するのは虚しいが。
「イリス漁業連合の広報がしたいのでしょう? そのために制服をわざわざかわいいデザインにしてるのよね?」
「そうです」
それを言われてしまうと、今回の目的が広報である以上、制服以外で参加するという選択肢はない。
エーリカ様の命令という強力なバックアップの元、イリス漁業連合の制服を礼服として認めさせる『前例』を作れるというのも大きい。
前例バンザイだな、と思った。
「決まりね」
満足そうなエーリカ様。
「どうせみんな胸とか背中とかガバッと開いたドレスとか着てるのよ。制服のほうが健康的よ。
それに、出席者たちは艦長としてのスイが見たいのだもの」
言い方は悪いけれど、田舎娘が着飾って会場に紛れ込もうとするよりは、ずっといいだろう。
「スイ、大丈夫かしら?」
「はい。お任せください」
「じゃあよろしく」