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万能戦艦イリスヨナ / 愛しのイリス様のためなら古代戦艦だって総て滅ぼすことができる【百合】 / 愛しい我が巫女姫のために艦隊作るよ  作者: MNukazawa
人造艦船『択捉』初陣、ヒトの作りし船 / 婚約を破棄してもらった / VS狙撃砲艦
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ファッションリーダは公爵令嬢の嗜みです / 平民艦長スイの被写体デビュー

「せっかくわたしもドレスが着れるチャンスと思ったのですが」

「ごめんなさいね。制服姿が先方の希望なのよ」


化粧を施しながら答えるトーエと、落胆するスイ。

すでにカメラ前の定位置で撮影機材に囲まれて、準備万端のエーリカ様。


「今日の撮影は小物と化粧品の特集なの。それに、そんな素敵な服を毎日着ておいて、いまさらドレスもないでしょう?」

「トーエさんの作ってくれたイリス漁業連合の制服、着心地よくてかわいくて、すっごいお気にいりですけど。でもそれとこれとは別なんです!」


いつのまにかエーリカ様にも気後れせず話せるようになっていて、人間関係か成長か、スイにも何かしら変化があったようだ。


「だって、辺境国の田舎娘が百貨店のファッションモデルなんて、ドレスを着るのに、一生に一度もない機会ですよ」


鉄道網を命脈とする大国アルセイアにおいて、鉄道と紐付きの店舗である百貨店は、食料や生活だけでなく、文化風俗においても影響力が強い。

そして百貨店が発行している各種カタログ雑誌は、そのまま大陸全体の最新流行を左右する『ファッション誌』でもある。


その『ファッション誌』でスイが表紙を飾る。

ましてや有力貴人家の子女や専業モデルを差し置いて、エーリカ様と一緒に撮影は、まぎれもない大抜擢。

スイは一躍シンデレラガールということになる。


「私も社会勉強を兼ねて雑誌はよく読んでますよ。エーリカ様はよく載ってますよね。表紙を飾ることも多いですし」

「ええ。昔からよく撮ってもらうの。カメラマンが優秀だから」


さすがはエーリカ様、雑誌に載って大陸中の憧れの的となるのは、写真撮影のついで扱いらしい。


この大陸で『公爵令嬢』といえば、あらゆる階層の女子があこがれる大スター。

だからエーリカ様は以前から百貨店の表紙を飾ることが多かった。


さらに最近、鉄道網を取得したことで『鉄道女王』となったエーリカ様は、いまや小口ながら百貨店の出資者にも名を連ねている。


やっとドレスを諦めたらしいスイが気を取り直す。


「まあでもこれも一度きりの良い経験、一生の思い出ですね」

「それはどうかしら」

「へ?」

「あなた、巷ではけっこうな有名人よ。敵艦を撃破した英雄だもの。

だから今回の企画に声がかかったのだし、今後のイリス漁業連合のイメージ戦略次第だわ」


エーリカ様が水を向けたので、私が答える。


「よかったじゃないスイ。

広報はトーエが担当しているのだから、間違いないわよ。

今後もこういう機会は何度もあるわ」

「重すぎる信頼ありがとうございます」


さらりと答えながら、スイの制服のリボンを結びなおす。

雑談をしながらトーエは、そつなくコーディネイトと打ち合わせを済ませていた。


「こちらは準備OKです」


スイを見てエーリカ様が目を細める。


「いいわね。でも頑張りすぎだわ。これでは私のほうが見劣りしそう」


(いやいや、流石にそれはない。)


現場の総意だったが、エーリカ様の言葉に逆らえる者などいない。


「そういうわけでトーエ、私の世話もしなさい。ヨナ、借りるわよ」

「ええ。それはもう、構いませんが」


エーリカ様への私の返事は、いつでも全面服従で決まっている。

トーエはエーリカ様の付き人から化粧品を受け取りながら、いらずらっぽく答える。


「かしこまりました、お嬢様」


エーリカ様のほとんど手を入れる箇所なんてありませんよ、という手付きで、小さな動きで『ちょんちょん』と手を入れるトーエ。

しかし、化粧だけで済まずにあらゆる細部へいつのまにやら手が加わり、フリルの皺のカタチにいたるまで、いつ終わるのかと思うほど。


「前からいちど、あなたにコーディネイトしてもらいたかったのよ」

「光栄です。でも百貨店の仕事にはほとんど縁がありませんでしたから、お作法がわからなくて戸惑っています」

「こちらが合わせるから、気にせずいつもの仕事をしてくれればいいわ。あなたの仕事にはその価値はある」


この場合は、カメラマンと現像加工する百貨店の企画担当にそういう仕事をさせる、という意味だろう。


「お褒めにあずかり光栄です。

でも、得意分野はハンドメイドの一点物ですよ、わたし」

「択捉のデザインもあなたでしょうに」

「キャリアとしては良いアピールかもしれませんが、あれはミッキの仕事ですよ。

わたしの仕事は、住環境を整理して、見た目を整えるだけ。

なんとか足を引っ張らなくてよかったというのが率直な気持ちです」

「謙遜ね」


「100人以上の乗員が生活する艦ですから、全員を満足させるところまで至ることができませんでした。

たったひとりのために作る魔術具の細工は、考えることも少なくて楽だったなと、いまは思います。

そのヒトに合わせることだけ考えればいいわけですから」

「それは、あなたがもつ才能ゆえの感覚だわ。

普通のヒトには、ひとり満足させることだって、簡単なことではないのよ」


化粧がおわり、トーエの仕事も終わりかと思ったところで。


「さあ、私たちはどんなポーズをするのが良いかしら。

照明は? 表情は? キャッチコピーはどんな文言が魅力的?

あなたの考えをきかせなさい」


そうやって攻撃的に笑むエーリカ様の表情は、その場の誰もが背筋を凍らせるほどに獰猛で魅力的だったけれど。


「そうですね、たとえばキャッチコピーは『運命を切り開くあなた』で、それから小物が」


受け止めたトーエは、なんでもないといった様子で、すらすらと答え始めた。

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