VS狙撃戦艦7 / 択捉、頓死
海面に触れたときのゆらぎだけ器用に自動修正して、魚雷は愚直に進む。
ゆったり進む敵魚雷と行き違い、またたく間に敵艦に突き刺さった。
衝撃も遠く、またたくまに燃え上がりながら真っ二つに割れる敵艦。
聴音が古代戦艦の竜骨自壊音を確認せずとも、敵艦の殲滅は目視で明らかだった。
「やった!」
「やったぬ!」
発令所に歓声。
「敵艦撃破いたしましたわ! 各所に伝達を」
言いかける掌砲長を遮り。
「全館警報鳴らせ! 総員退艦準備、ハッチすべて閉鎖、第三甲板は放棄、総員は衝撃に備えよ!」
湧き上がりかける喜びに冷水を浴びせる。
慣性推進力と舵を失った択捉に、できることはもうない。
択捉はもうすぐ、真っ二つになって燃え上がる敵艦の後を追うことになる。
「敵魚雷さらに増速!」
どうあれ退艦は間に合わない。
鳴り響く警報、観測長による接触までのカウントダウン。
魚雷命中までの長くて短い12秒。
必要な指示はすでに、すべて出し尽くした。
やることがなくなってしまった。
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思えばすべてはただの成り行きで、別に他の生徒のように、心焦がれるほど強く艦長になりたいわけじゃない。
確率において最も有効に、択捉を使い切ることを考えた結果のつもりだけれど。
この戦いは、あたしを巫女に選んでくれなかった古代戦艦への復讐だったのだろうか。
あたしの最初の望みは何だったっけ。
戦闘の興奮が冷めると、いままでずっと艦長席の肘掛けの上で、指が絡んでいたことに気づく。
スイの指だった。
触れた箇所から、必死に隠そうとしている震えと絶望と恐怖が伝わってくる。
それでもスイは艦長の椅子に座っている。
「スイ、ごめんなさい」
口ではそう言いながら、あたしという人格は、他人の生命を消費することに何の罪悪感も感じない。
あたしは、こうなることをすべて最初からわかっていて、やった。
「仕方のないヒトですね、フーカは」
わだかまりのない笑顔を向けられて。
「いいですよ、あなたといっしょなら」
震える手と、柔らかな表情で言われて。
あたしの人生の終わり。
これが死か。
ああ、悪くないな、と思ってしまった。
次の瞬間、択捉の船体側面に魚雷が突き刺さり、足元に衝撃。
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択捉船内に侵入した魚雷。
古代戦艦の強固な装甲隔壁を突き破って竜骨を破断するための魚雷が、択捉のあまりに脆弱な船体防水隔壁を突き破り。
硬い構造支持材には衝突せず、艤装されていない装甲には衝突するはずもなく。
カラの燃料タンクと船室を飛び抜けて、竜骨の1.2m上をかすめる。
反対側に抜けて、さらに海中をすこし駆けてから、何かを思い出したかのように起爆した。