VS狙撃戦艦5 / 人造艦船『択捉』の価値
飛翔し着水した敵艦は、その勢いでイリスヨナに突撃する。
択捉の発令所からも、一連のできごとをはっきり見て取ることができた。
敵艦は着水の衝撃でこちらの魚雷を蹴散らす。
着水による艦の動揺がおさまるのを待つことなく、これまで使っていなかった前方2基の艦砲で照準もいい加減なままイリスヨナを連続砲撃。
盾を射抜くが、すべて船体には当たらず。
古代戦艦アンドレアが正面から衝角突撃するのを、イリスヨナが盾で受ける。
アンドレアは押し込み、イリスヨナの盾を歪ませながら船体側面へ。
近すぎるし盾が邪魔で、魚雷攻撃がむずかしい位置を取る。
敵艦アンドレアはさらに、周囲へ4発の単魚雷を射出。
魚雷は標的をシークするような低速動作をしているが、付近の艦にロックする様子はない。
「なるほど牽制というわけね」
精密砲射撃戦でイリスヨナの撃破を狙う敵艦に、さすがに魚雷の調停ができる余裕はない。
適当な調停しかできない魚雷を、わざと当てずに走らせることで、他艦へプレッシャをかける。
のろのろ進む魚雷に対処しているうちは、反撃の余裕がない。
残存艦艇はイリスヨナとの一騎打ちを邪魔をしなければそれでいい、という割り切りだ。
貴重な魚雷と操艦リソースを上手く使っている。
まさかここで距離をつめてくるとは。
敵艦は向こうの河に陣取っていれば、こちらを一方的に殴ることができる。
だが彼我に距離があるかぎり、イリスヨナは艦砲を余裕で回避することができ、決定打は与えられない。
友軍艦を守るイリスヨナの挙動。
だから遠距離狙撃でイリスヨナを消耗させたうえで、隠し玉のジャンプで距離を詰めて、相打ち覚悟の近接戦闘。
間違いなく、敵艦の狙いは最初から古代戦艦イリスヨナの殲滅だ。
観測長から報告。
「イリスヨナが魚雷を発射しました! 1発のみ。敵艦との距離離れる」
イリスヨナが魚雷攻撃で確実に有効打を生み出すには、敵艦が近すぎる。
大きな旋回半径を疾走させなければ魚雷をぶつけられず、それも自爆を避けるために、弾数を絞らざるおえない。
敵艦はその間に、艦砲を距離ゼロで連続で叩き込むことができる。
「敵魚雷、一発がこちらを指向して疾走中!」
露払いにばらまいた魚雷のうちの1発。
付近に満足に浮いている船もたいして残っていない。
他に大きな脅威はおらず、魚雷が余ったから念のため。
ついでに。
世界初の人造艦船『択捉』、我々のちっぽけな『はしけ』に対する、それが敵艦の評価だった。