VS狙撃戦艦4 / 飛ぶ戦艦
イリスヨナの光学観測が、敵艦の変化をとらえる。
「敵艦が増速したな」
「相対速度がすこし遅れていたから、こちらを追い越すつもりかしら」
敵である古代戦艦アンドレアの足が遅ければ、艦隊全体で逃げることが可能だったのだが。
そう都合良くはいかない。
「進路変更した?」
「このままだと乗り上げるわよ。どういうことかしら」
すでにこちらの砲艦はほとんど無力化されてしまった。
相手はワンサイドで殴っている状態で、このままやれば負けはない。
イリスヨナも盾の強度が限界でこれ以上の防御はできないが、敵弾を避けるだけなら簡単なことだ。
「何か考えがあるのは間違いないけれど」
浅瀬に乗り上げて不沈砲台、なんて最低のジョークを真顔で言うのは、負け越しの大日本帝国海軍だけだ。
古代戦艦イリスヨナだって、このまえ丘に乗り上げたときは大変で。
と思い出しかけたところで。
「え、嘘」
敵艦がなにをしようとしているか、わかってしまった。
「掌砲長、えとその、雷撃戦準備」
「は?」
『総員対空、雷撃戦準備』
艦内放送とどちらが早かったか、敵艦アンドレアが水柱をあげて急加速。
そのまま河川の浅瀬に乗り上げて、戦艦がジャンプした。
敵艦が来る。
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「前方魚雷発射管、全魚雷の準備よし!」
『1番から4番まで発射』
敵戦艦が飛んでくる。
距離があるので現実味のない光景がさらに数秒ほど続く。
「あんなでかいマト、撃ち落せよなぁ」
掌砲長がぼやく時間すらある。
「練度不足もあって無理でしょうね。ここまで命中弾どころか至近弾もなかったもの」
「イリスヨナだけとっとと逃げればよかったんじゃないか?」
「択捉を置いてはいけないわよ。牽引索が切れてしまうわ」
あくまで軽口だが。
イリスヨナの対空装備では、軽すぎるし相手が遠い。
『総員、水面からの衝撃に備えよ』
おおむね予想通り、魚雷は敵艦の着水衝撃で軌道がそれた。