VS狙撃戦艦3 / 択捉、参戦ならず
「19番のベントを閉じるまえに18番までの気密をもう一度確認しなさい。数字だけでなく針が動かないこともチェックして」
コトここに至ってなお、戦闘配置が終わらない。
択捉艦内はどこもかしこも箱をひっくり返したような大騒ぎ。
これで武装と主機を実装したとして、その時にはどうなることか。
周囲で混乱している古代戦艦を『まぬけ』と罵ったところで、択捉の現状は同じようなもの。
そのことには苛立ちを感じるが、頭はわりと冷えていた。
『こちら機関室、スクリューメインシャフトの整備マニュアルが溶けました!』
蜜蝋封印の防水紙が溶剤で溶けたのだろう。
「危険物容器のフタを閉め忘れてるから総員マスク着用のうえ、液漏れをチェックして報告。記載されていた次の手順はスクリューメインシャフトの気密圧のチェック」
『了解!』
「艦長、状況によっては機関室は総員退避させて気密封印します」
「おまかせします」
「それと機関室、さっき後ろで油圧バルブの締め付け音がしたけれど、燃料圧力パイプのチェックは機関未実装につき省略される手順よ。
ドキュメント再確認して。22ページ下段13.5章よ」
『りょ、了解』
船がかすかに揺れる。
「操舵、舵そのまま!」
巻き角のはえた首が縮こまる。
「は、はいぬ!」
「択捉にはもう推進力がないわ。あと1回の舵を切ったら、慣性を使い切って回避行動もとれなくなるわよ」
すでにあちこちで、古代戦艦同士の衝突が発生していた。
やたらと頑丈な古代戦艦に衝突されたら、装甲も未完な択捉では一方的に押しつぶされる。
たとえ装甲が艤装済みであったとしても、人造艦船と古代戦艦の圧倒的性能差は埋まりはしないが。
「はりぼて、か」
指先で撫でた艦長の椅子は、張り子とはとても感じられない、重い鉄の塊だった。
手が上に重なる。
100人超えの人員の命を預かる少女の手、とてもそうは見えない、艦長椅子の主だった。
「えと、フーカ」
副長と呼べ。
返そうと思った言葉は、キングス弁の不調を訴える工兵からの連絡により言えずに終わった。