古代戦艦、大集結 / 大河航行 / 見て聴き黙るイリスヨナ
各古代戦艦は、おのおので大河川の支流本流を進みながら事前のスケジュールにて順次集合。
東西南北の4つの大集団となって、大国アルセイア帝都へと参集する。
古代戦艦イリスヨナは、ひときわ大きなはしけを引いているため、縦隊の末尾につく。
互いに衝突を避ける2列縦隊の間隔は広い。
古代戦艦の動作不安定性にくわえ、古代戦艦どうしによる初の連携行動。
スケジュールは滅茶苦茶になって大国アルセイアから派遣された先導艦は忙しくしているようだ。
イリスヨナは時間どおりに合流し、そういった時刻調整のごたごたとも関わりがなかった。
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「イリス嬢は観艦式に娘を連れてきたのか」
「いや、先代イリスヨナは数年前に亡くなっている。まだ幼い一人娘が巫女を継いだと言う話だ」
「幼年の巫女姫がイリスヨナを継いだという話は本当だったのか。身体が出来るより前の就任はことさらに命を縮めるというのに」
「だが見てみろ、憔悴の様子もない。うちの巫女姫が丘暮らしで休養している日よりも健康に見える」
「しかし例の人形とやらを連れていないな。替え玉ということはあるまいな」
「ありえない話ではないが、もしそうであれば、もっとそれらしく振る舞うだろう」
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古代戦艦イリスヨナとその巫女が注目されているというのは、どうやら本当らしい。
イリスヨナのカメラとマイクは、付近船上の様々な会話を拾っている。
のぞき見みたいで犯罪じみていて好きではないが、貴人同士の付き合いというのは多かれ少なかれそういうものだと、レインに説得された。
「でもそれにしては、あまりに相手が無警戒じゃない?」
「遠見や遠隔視は可能ですから、相手も当然警戒してますよ。気づかれていないのはイリスヨナの特性によるものです」
「特性?」
「イリスヨナの目と耳は魔力を用いていないようなんです。
彼らもそれなりに高位の魔力保持者ですから、魔力で探査されたら気づきます。
ほら、フーカを見つけた時も、普通の魔術による探知ならフーカの方も気づいて警戒していたはずです」
言われてみればあの時のフーカは周囲の目線に無警戒に見えたが、つまりは見られていれば普通は気づくから、ということだったらしい。
「へえ、そうだったの」
「さらに言うと、古代戦艦の素材はおおむね魔術を通しませんから、イリスヨナ側は船内の会話が漏れることはありません」
レインの説明をきいて、悪いことをしている気持ちが増した。
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大国アルセイアの目がこちらを見る余裕がないのをいいことに、辺境国同士での会談があちこちで行われる。
特に古代戦艦イリスヨナは忙しく、こちらが出ていく暇もないほど、来訪者が途切れることはなかった。
男は胸に手を当てる、この地域の一般的な礼を示す。
「見事な操艦です。王家の艦隊から派遣された船が誘導役でなければ、艦隊の先導を努めて頂きたいほどだ」
イリス様は目を伏せてゆっくりと首を横にふる。
「わたしではありません。船のことはヨナがすべてしてくれます」
「先代のイリス様には拝謁したことがあります。これからは古代戦艦同士、巫女同士も交流を許され付き合いも増えるでしょう。我が国と巫女とも仲良くしていただきたい」
「そのような未来を、わたしものぞんでいます」
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「私は出ていかなくてもいいの?」
「イリス様の隣にいたいのは理解していますが、どうか船内に籠もっていてください」
イリスヨナの甲板上で、巫女の付添人や外交官、武官と挨拶をする。
「ここで巫女が直接に挨拶できるというのは、外交上の大きなアドバンテージですからね」
「だったら相手の巫女にも会いに行けばいいじゃない」
「イリス様が動いている船から離れられるという情報は、外交カードとして温存しておきたいのです」
戦闘でも大きな切り札になりうると、フーカが言っていたっけ。
最後まで隠し通せるとは思っていないが、イリス様の船外退避は、いつか古代戦艦イリスヨナを処分する際の絶対条件だ。
そのフーカはといえば、さっきから有線電話の向こうで無言。
択捉には、甲板の会話イリスヨナからバイパスして有線電話で流している。
会話に聞き耳を立てながらスコープを覗き、人物と名称を一致させるのに集中しているのだという。
「さすが元王族は人物の把握に熱心ね」
名刺を集める営業職のごとし。
わたしは半分も覚えられないかもしれない。
なにしろ目を喜ばせる『船』がずらっと並んでいるのだ。
巨大な板装甲を船首に掲げる防護船。
奇妙なつぎはぎが船体全面を覆う船。
ひとつの砲塔に大小の砲門を積んだ、多種連装砲塔。
舷側砲を並べたガレイ船のような横撃船。
アコーディオンのような魚雷発射機を乗せた船。
三角のアンカーを射出攻撃すると思わしき船。
前後に衝角をもつラムアタック船に、多胴船に、三つ叉の多頭船。
レールガンとも光線銃ともつかない口のない砲を乗せた船もある。
「ヨナさまにも夜の部がありますから、社交には不足しませんよ」
「別に外交がしたいわけではないのだけれど」
しかし実際に顔を突き合わせることは、関係構築には欠かせない。
「大丈夫ですよ。筋書きの台本はちゃんとこちらで用意しましたので、その通りにしていただければ」
「わたし演劇部じゃなかったのだけれど」
正確には、他の記憶と同じく高校の部活なんて覚えてない。
まあいい。
それも織り込んだトーエの筋書きは、シロウトの私が演じるのに無理のない内容になっている。
「すべてはトーエのシナリオ通りに、ね」