択捉ウィズ「パッケージ」、魚雷1発だけ背負って / またもやなにやら間に合わせ
「問題は択捉の航行です」
ミッキは択捉の設計者であり、建造の主任でもある。
小柄で短い黃髪、作業現場で目出つ青赤の専用制服に、上から白衣。
択捉は主機と武装どころか、装甲を艤装する時間すらとれないまま、次の活動が決まってしまった。
「そもそも択捉は、長期の連続運用を想定して設計建造していません」
基本は日帰り寄港で運用し、いずれ一晩夜漁、天候不順で洋上足止め、くらい。
武器弾薬の積載量。
燃料と主機の稼働時間。
食料と消耗品の置き場。
溜まったゴミやリネンの処分。
使用から整備までのインターバル。
「ほとんどをイリスヨナに依存することになります。まあそれはこれまで通りではあるのですが」
ある意味では、択捉はただ浮いているだけではある。
だが択捉ほど大きい人工構造物となると、ただ浮いているだけでも大変なのだ。
漁師を乗せる必要がないとしても、長期運用の整備を考えると、ほとんど定員で乗艦になる。
「択捉船員のほとんどにはイリスヨナへの乗船許可がありませんから、イリスヨナから生活物資を運び込むことになります」
フーカがスイに作らせた運用計画の概要。
渡されたドキュメントから、フーカの怒声とスイの悲鳴が聞こえてくるようだ。
食料等の物理面はフーカが見たからこれで問題なく、ここからさらにトーエの赤が入る。
「で、まずはシャワー?」
「既存の野外風呂をそのまま乗せました。これにプライバシの小屋と仕切りを追加します」
そもそも日本帝国海軍の択捉には風呂がなかったという。
軍用艦艇の生活環境というのは、戦艦ヤマトが風呂があるから大和ホテルと呼ばれていた、というレベルだ。
イリス漁業連合の建造した択捉には、作業後に汚れを落とすためのシャワー室はあるのだが、入浴には適さない。
士官用のシャワー室が別にあるが個室で全員は使えない。
「毎日夕方に後部甲板に展開します。幸い航路は河川上なので水には困りません。加温はイリスヨナからの供給電力で行います」
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「甲板でお茶会をするのに邪魔ね」
高さ一メートル弱、横幅10メートル程度。
択捉の前方甲板、艦砲を搭載予定の空き地に、甲板の横幅を飛びだして、横置きで鎮座している細長い箱。
『パッケージ』は、イリスヨナのI種魚雷を箱詰めしただけの代物だ。
掌砲長が事前調停した設定で、ロック解除すれば、択捉からボタン1つで魚雷を発射できる仕組みになっている。
「それで掌砲長、調停は?」
「魚雷は直進の近接信管に調停しておいたぞ」
「動力も旋回装置もない択捉からだと、魚雷で狙えないわよね、自動誘導は使わないの?」
「今回は複数艦でまとまって移動するんでしょ」
掌砲長ではなくフーカが答える。
「味方の船がうようよ浮いているんだから、どちらにしろ自動誘導は使えないわ。いざとなったら艦ごと姿勢を相手に向けるわよ」
それを言うなら近接信管もちょっと危ないが。
ともかく掌砲長がいない状況で、魚雷の調停を事前の設定から変えられないのなら、現在の設定がとりあえずの最適解という判断。
まあ何にせよ、パッケージは実戦向けの艤装というより、イリスヨナなどの古代戦艦からの艤装の転用を試みる最初の段階だ。
当然のことではあるが、暴発さえしなければいい、という。
まあ、必要なときはそんなものでも使うしかないのだが。




