大国アルセイア、大観艦式の参集命令 / 広報ちょっとタイム
例年おこなわれていた、王都での観艦式は延期になっていた。
表向きは戦局の変化により。
本当の理由は、辺境国のどこかが古代戦艦を一隻失い、大スキャンダルの露見を遅らせるためだった。
失われた古代戦艦というのは、古代戦艦イリスヨナが撃沈した船なのだが。
「古代戦艦についてよく知らない層の市民に対して、数をなんとなくごまかそうってつもりらしいわ」
古代戦艦の水増し。
大国アルセイアのやることは、さすがのスケールだ。
「いまの択捉はイリスヨナがなければ使い物にならないのでしょう?」
「それはそうですね」
確かに、択捉が古代戦艦イリスヨナの随伴なしに海に浮かんでいたら、海獣たちの格好の標的だ。
たちまち沈められてしまうだろう。
というか、いまの択捉は機関が未実装なので、イリスヨナが曳航しなければ、そもそもドックから漕ぎ出ることもできないのだが。
期間中には『択捉』の使用料が発生し、そのうえで安全な河川上で長期稼働の試験をできると思えば、悪くはない。
「そういうわけで、いま択捉の存在が市民に広まるのは都合が悪いヒトたちがいるの。
だから択捉の存在といっしょに、択捉が漁獲する海産物の宣伝もストップしなさい」
「そうですか」
内心『そんなぁひどい』だが、自らが属する勢力である大国アルセイアとは、当然に仲良くしていきたいので、その意には素直に従っておく。
エーリカ様の指示ではないのだろうが、ともかくエーリカ様が反対していないなら、意向に沿うことではあるのだろうし。
「その代わり、観艦式が終わったら、宣伝については支援を受けられる約束になっているわ」
「それは大変嬉しいですし、助かりますが」
それよりスケジュールと座組の変更で、トーエに迷惑をかけたくなかったのだが。
イリス漁業連合による、海産物の消費拡大と宣伝。
人心の機微に詳しいトーエにしか任せられない仕事だった。
そしてトーエの麾下にあるイリス漁業連合広報部の、現在の大きな仕事。
トーエが、この世界で海産物のある食卓をデザインするという大役になる。
食べ物というのは地域や国の文化そのもの。
美味しいからといって、いきなり異世界の料理が受け入れられるわけではない。
ましてや、海鮮というのは小骨があり食べるのが面倒、イカタコをはじめとした異形の数々。
また、我々イリス漁業連合が目指しているのは珍しいメニューを扱う小さな店とかではない。
海洋食品が毎日、あまねく食卓へのぼることを目指す、巨大食品流通網だ。