幕間:大国ストライアの攻城戦艦6 / 艦隊戦闘の教本執筆
「古代戦艦は未解明技術のカタマリなのよ。性能について不明点が多いから、運用戦術についても概念的なふんわりした話になりがちだったのよね」
「はあ」
「でも人造艦船は違うわ。性能も信頼性もすべてスペックシートの通り。
具体的な使用法と限界がわかっていれば、状況ごとに包囲戦でステップ毎に必要な旋回角度といった具体的な想定ができる」
「はあ」
「思考は経験で律速されるものではないけれど、経験と知識によって枝狩りと加速が可能なの。
いまなら、あたしが生きているうちにたどり着けないと考えていたところまで行ける」
「えっと、つまりどういうことなんでしょう。というか、ちょっと前からずっと、何を書いているんですか?」
「教科書よ。あたしがこれから書く本は世界初の本物の、艦隊戦術の教科書になるわ」
「はー、それはすごいですね」
まったく凄さが伝わってない、安穏とした調子で答えるスイ。
「お茶どうぞ」
「ありがとう」
「それで、そのすごい文章をどうして、わたしの部屋で書いているんですか?」
「ここが艦長室だからよ」
気分が乗るから筆が進む、と答える。
「おいしいお茶も出るし」
「あ、お口にあうお茶が淹れられるようになりましたか」
「ええ。このお茶の味は立派なものよ」
フーカは貴人むけの淹れ方を好む。
スイの知っている普通とは違って、貴人が飲む茶の淹れ方は、茶葉を惜しげなく使うしこだわりが多い。
「せっかくの艦長室が独占できなくて不満かしら?」
「いえ、そんなフーカみたいな。ひとりでいるより楽しくていいです」
「教本を書いているの。ノートにメモを書いていた頃とは違う。
あなたが見ているのはその歴史的過程なのよ。幸運に思いなさい」
「はい。まあ動きはなくて地味ですが。いえ、そんなこともないですかね」
スイは自分のカップにお茶を注ぐ。
「フーカ、美人ですから見ていて飽きませんし」
フーカは当然ねと言わんばかりの表情で、ただ満足気に鼻を鳴らした。