表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/630

幕間:大国ストライアの攻城戦艦5 / 復讐の長距離狙撃戦艦

「わたくしたちは多くのものを失いましたわ」


そう口にしたのは、今回の戦果をあげた張本人であるアンドレア。


超長距離を狙撃可能な、古代戦艦アンドレア。

古代戦艦アンドレアは高精度な艦砲射撃だけでなく、今回の作戦を成功させた、さらに特異な機能を持っている。


「水は盆には返せない。死者は生き返らない。

アネモネのことも、いまさらどうしようもありませんわ」


アネモネの死は、おそらく通りすがりの賊による、ある意味でとてもつまらない死だ。

そもそも、名を伏せ旅人のように暮らしていたアネモネの殺害犯を、異国で探し出すのは困難である。


「ですが、やられてばかりである理由もありませんわ。

撃沈された戦艦『アンジェ・リコ』については違いますもの。かたきを討つことはできましてよ」


その場の誰もが思い返すのは『アンジェ・リコ』の巫女のこと。


古代戦艦の巫女になった者は、苦痛の中で生きることになり、成人前に命を落とす。

巫女の役割はその家の若い長女から果たすことになっているが、仔細は家による。

また現代では適性などを鑑み、柔軟に選考が行われる。


それは恣意的という意味でもあり、奪いあいの一方で押し付けあいになっている家もある。


それでも彼女『リコ』は自ら志願し、健気に巫女の役目に努めた。

没落し、離散目前の家族を助けるために。


心優しいマティアス嬢とアネモネの姉妹を含め、ドックの誰もが彼女の健気さに心を打たれ、応援していた。

だが、その夢も消えた。


古代戦艦一隻の損失は、健全な貴人家であってさえ重すぎる。

そしていま、古代戦艦の価値は『イリスヨナ』と『異能』の覚醒により高騰しはじめている。

その天井は未だ見えない。


巫女たちには古代戦艦を失わないよう運用しなければならない立場がある。

リコの家族は前より過酷な立場に追い込まれているが、巫女たちは表立って支援することもできないのだった。


だから巫女の誰もが『リコ』の敵討ちの意志は固くとも、立場により動けないまま、そのことにいきどおりを感じている。


「約束通り、攻城戦の戦果をもって、わたくしの提案した作戦に認可をいただきますわ。

我が艦はこれより偵察任務につき、敵地の奥へ。

そのあとで敵との不意遭遇があれば、自由行動をとらせていただく。よろしくて?」


可否を判断するのは、第一艦隊を統括するマティアス嬢。


「やはり行きますの?」

「ええ」

「あなたの戦艦には他の艦にない能力がありますわ」

「それも、タネがばれるまでのことでしてよ。

そして、あんなに目立つ能力である以上は隠しようもない。すぐに周知のものとなりますわ」


今回の作成は、古代戦艦アンドレアがもつ『隠し機能』の活躍がなければ実現しなかった。


しかし、古代戦艦アンドレアは優秀な遠距離狙撃砲を持つ古代戦艦。

戦艦による奇襲のタネが割れたあとも、十分に戦える優秀な戦力だ。


古代戦艦イリスヨナを撃破、殲滅して戻って来さえすれば。

アンドレアの発言から『たとえ刺し違えてでも』と考えているのは明らかだった。


「わたくしは先駆け。あくまで目覚めが早かっただけのことで、いずれ皆さんの古代戦艦にも、より強力な力が目覚めていくでしょう」

「それは巫女としての感覚かしら?」

「予感、よりも確信に近いですわ」


そしてアンドレアは真っ直ぐにマティアス嬢を見る。


「古代戦艦イリスヨナ。我々の船とは明らかに異なる目覚め方をしたという、不穏なる敵の古代戦艦を沈めます。

われら第一艦隊の輝かしい未来への露払い、その名誉をわたくしにお与え頂きたいのですわ」


マティアス嬢は、お茶を口に含み、少しの沈黙のあと。

一瞬だけ、目元に悲しげな影を落として答えた。


「許可いたします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作に登場する架空艦『古代戦艦イリスヨナ』を立体化! 筆者自身により手ずからデザインされた船体モデルを、デイジィ・ベルより『古代戦艦イリスヨナ』設定検証用模型として発売中です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ