幕間:大国ストライアの攻城戦艦3 / 戦場で敵とワルツ
呆けていられたのは一瞬だけだった。
「敵の突撃が始まった」
第3軍団長が唸る。
「まずいですな。このままでは前線がずたずたにされます。後方も丘の上の友軍が戦闘前に崩壊しそうな状態です」
崩されたのは後方の城壁。
戦況へ直接の影響はない。
しかし、その壁を守って前線で戦っていた者たちの『士気』には、壊滅的な被害がおこる。
また戦術面においても、適時に城壁まで後退できることは、重要な意味を持っていた。
いつでも安全地帯で兵士を休ませることができたからだ。
守備側であるこちらの大きなアドバンテージが、壁とともに失われた。
レヴァはすぐさま指示を出す。
「重騎兵を作れ。準備を考えると時間がないぞ!」
防衛戦ではあまり用途がないが、いちおう用意してきた重装備。
騎兵の一部を臨時の重騎兵に仕立てる。
正規軍とはいえ、準備にまごついて時間を食うのは違いない。
「レヴァ様よ、あの鉄火場に飛び込むつもりか?」
「同盟による参戦だ。守備役を放り捨てて、ただ逃げ出すわけにもいかん」
だがこのまま守備軍に付き合えば、軍団を負け戦に投げ込むことになり、多くの人員を失う。
「お付き合い程度に戦っておかねばならない。敵先頭を横から砕いて、そのまま敵中を駆けて後方へ抜ける」
そう、駆け抜けるだけ。
「グラヴァス、先頭はわたしとお前だ。進路を設定しろ」
「いいぜ、かしこまったよオジョウサマ」
先頭と末尾の殿を重騎兵で固めて、騎兵で敵戦列をひと舐め削る。
重騎兵は動いている限り敵なしであり、戦場で塹壕と鉄線なしに、機動する重騎兵を止めるのは難しい。
味方の塹壕と鉄線はこれから敵が破断するので、そこを駆け抜けて後方へ。
敵の目的はあくまで攻城。
たとえ損害があっても、城壁のない横に抜けて戦線を離脱していく奇襲隊列へ戦力を割けない。
こちらは、タダで戦場をほっぽりだして逃げることなく味方への『義理』を果たす。
相手は犠牲を払うが、攻城に相応の範囲内。
そして状況的に、敵が城を落とすことはすでに規定事項で動かない。
敵は数日前からこの結果を知っており、陣形を準備してきた。
対するこちらは先程やられた直後、全軍が士気崩壊をおこしかけており、機能が麻痺している。
よくできた戦いというのは良くも悪くも、打ち合わせなしに敵とダンスを踊るかのよう。
こちらの布陣はこう、あなたの布陣はこう。
周囲に耳を澄ませ、曲調からしてステップはすばやく激しく。
手をとりあって、あなたが腕を押すと、私が引く。
私は右足を踏み出すが、あなたは定石がわかっているから左足を引く。
といった具合だ。
スカートで隠した尻尾がどこにあるかはともかくとして。
もちろん今回の城壁破砕のような『隠し玉』だってありえるが、それゆえ奇抜な一撃が決まったあと、ダンスの動きはそうそう定石を外れない。
おたがい、心の底に思うところがあり、ダンスの相手に不満があったとしても。
ステップを崩して足を踏んだり転んだりといった、痛い思いはどちらもしたくはない。
指揮の通らない乱戦であたら兵数を失う戦いは、お互いやりたくないのだから。
協調してダンスを踊ったほうが、互いにまだ損失が小さいのだ。
絶え間なく戦場を見回し、勢力図と地図を更新しながら待つことしばらく。
「準備整いました」
「重騎兵を前へ、ワタシが先導する。左の隘路を抜けるぞ。お前ら、お得意の突撃だ、前だけ見ていやがれ! レヴァ様とワタシに続け!」