幕間:大国ストライアの攻城戦艦2 / 城壁粉砕 / 長距離砲撃
答えを聞かずに天幕をくぐって外へ。
レヴァの守備隊がいる地点は主戦場をはずれており、魔術狙撃を避けた丘の影にあって、戦場を見渡せる見通しの良い場所ではない。
しかし丘を登れば戦場と城壁くらいは視認できる。
「新しい砲撃跡ができているな」
着弾地点のクレータはかなり城壁に近い。
しかし前線からは離れており、付近の軍に大きな被害は見られなかった。
「しかし、敵はどこから砲撃を? 新しい攻城砲は見当たらないが」
探している間に、クレータがもう一つ増えた。
「城壁内に落着したぜ」
魔術制御による遠距離砲撃ならありうるか、とも思うが、軍はほとんど城壁外に展開しており、城壁内に攻撃しても嫌がらせ程度。
相手もそれは理解しているはずで、高価な魔術砲弾とコストメリットが見合わない。
また勝ったあとの占領統治を考えれば、壁内の住民感情を刺激するのは得策ではない。
「レヴァ様、『鷹の目』で何か見えましたか?」
第3軍団長の問いに、レヴァは自分が見たものが信じられないという顔で答えた。
「砲弾が飛んできた」
魔力による肉体操作で得られる異能。
レヴァのそれは遠くのものがよく見える『鷹の目』と呼ばれる能力だった。
どうせなら戦闘技能であったほうが、少女のレヴァが部下を従えるのに都合がよかったのだが。
そんな腕力はなくとも父の部下たちはレヴァを立ててくれており、結果的に現場指揮官としては悪くない能力だった。
その能力で、砲弾の飛んできた方向に敵影を探す。
「河川上に何かいる」
丘から見下ろす水平線のぎりぎりの、小さな黒い影。
古代戦艦。
他に攻城砲らしきものは見当たらない。
しかし、監視網があったはずだ。
どうやって移動してきたのかわからないままだが、しかし現実に古代戦艦は河川上にあり、砲弾が飛んできた。
レヴァの『鷹の目』は同じ能力を持つものの中でも特に優れている。
にもかかわらず輪郭をとらえるのがやっとの距離に離れた距離から、古代戦艦は城壁を砕こうとしている。
その場の上級指揮官の誰もが状況を理解したときには、すでに遅かった。
もっと早く気づけていても対処のしようはなかっただろうが。
レヴァの『鷹の目』だけが、青空の中の小さな2つの黒い点として高速で飛来する砲弾を捉えていた。
だが撃墜も防御もできるはずはなく。
次の瞬間、壁面に出現したのは大きなネコの爪とぎ跡。
一瞬の空白ののち、大地を揺らすひときわ大きな衝撃とともに、厚い城壁が足元から砕け散った。