幕間:大国ストライアの攻城戦艦1 / 城壁防衛戦
「ここ数日、城攻めしている敵の動きがあきらかにおかしいのだ」
城壁守備隊が構えた簡易陣地の本陣の中。
レヴァは貴人家の一人娘で、軍団は代々武人であった彼女の家の持ち物。
家長であった父が戦場で行方不明となって、すべてを引き継がなければならなかった。
つまり、この場で最高指揮官は、一番若い少女のレヴァ。
会議の議題は、敵の不審な動きだった。
「敵の『新型攻城砲』が来てるんじゃないかって噂になってます」
眼鏡の第3軍団長が、兵たちの状態を教えてくれる。
彼は軍団長でありながら、1兵卒まで目が行き届くという稀有な才能を持つ。
レヴァが率いているのは兵の能力・士気が高い正規軍だったが、そうであってもひとたび士気崩壊すれば、簡単に軍でなくなり壊滅してしまう。
「あの噂の正体は古代戦艦だって話だぜ」
会議の場で崩した姿勢を直そうともしないグラヴァスは、戦闘においては突撃しか能のない女軍団長だが、それ故に情勢と情報を重んじ、罠や謀略の匂いに最も敏い。
「だから守備隊は周囲の河川港湾に監視の目を配置しているとさ。
このあたりはいちおうこっちの勢力圏だからな。
監視してて報告がないってことは、いまのところ敵の古代戦艦が発見されてはいないんだろ。
もちろん敵は何かをたくらんでいて、それが何かはやっぱりわからんわけだが」
「古代戦艦か。大国ストライアは動かんポンコツで有名だった古代戦艦を、実戦で使う方法をとうとう見つけたらしいな」
「こっちの古代戦艦も元気だときいているぞ。いまは魚釣りに夢中らしい」
「平和でよろしいことだ」
場に笑いが満ちる。
レヴァたちはいわば予備軍。
城壁の外ではあるが、敵の進軍からはずれた位置にあって、少し余裕があった。
城壁はといえば、厚い隊列と少しの距離、堀と塹壕と有刺鉄線に守られている。
『兵士を守るはずの城壁を、守るために兵士が戦うというのも変な話だな』と考えが一瞬わきにそれた。
いけないと首を振り、ふと見た机の上。
カップの中の茶が揺れた。
波紋はすぐに収まる。
胸のなかに生まれる違和感。
理由はわからなかったが、戦場で無意識のサインを無視することは、時として死に直結する。
「レヴァ様?」
「戦場を見たい。外に出るぞ」




